青木宣親も今季復帰は困難に MLBでも頻出する脳震とうの怖さ
MLBで定められている復帰への手順、「なかなか理解されづらい」症状に苦しむ選手たち
症状が悪化したのは、マイルハイシティと呼ばれ、標高1600メートルに位置する高気圧のコロラド州デンバーでのことだった。気圧の変化のためデンバーで多少の体調不良を訴える選手もいる。青木の中でくすぶっていた脳震とうの症状が、気圧の変化でより大きな症状となって現れた可能性は高い。
遠征2日目から体のだるさや胸の苦しさ、感情の起伏の激しさを実感するようになっていたが、一過的なものかもしれないと1日様子を見ることに。すると、遠征3日目にあたる9月5日の朝、胸が押されるような苦しさで目覚め、宿泊ホテルの部屋からチームトレーナーに連絡をとった。
チームはプレーオフ争いに生き残るか否かの瀬戸際。「そんな時に言い出すのは少し抵抗があった」というが、症状の変化を感じた遠征2日目に、昨季脳震とうで約1カ月の戦線離脱を強いられた一塁ブランドン・ベルトに相談。「少しでも症状を感じたらチームに自己申告した方がいい」とアドバイスを受けていたことも後押しになった。
脳震とうの症状を訴えたり、頭部への衝撃を受けた選手が戦列に復帰する場合、MLBでは次のような手順を取っている。キャンプ中に全員が必須で受けるImPACTシステムと呼ばれる神経心理学テストを再び受け、正常時との数値の差をチェック。さらに、頭部により大きな衝撃を受けたと見られる選手は、FIFAや五輪大会でも使用されているSCAT2と呼ばれる脳震とう診断テストを受けることに。再び試合に戻るためには、DLしたかしないかに関わらず、戦列復帰の申請書をMLBに提出し、MLB指定医の許可を得なければならない。
この流れは、2011年に7日間DLが制定されると同時に定められたもの。制度導入の前年2010年のツインズ時代、二塁に滑り込んだ際、二塁手のヒザが頭部に激突し、脳震とうを起こしたジャスティン・モーノー(現ロッキーズ)は、今でも脳震とうの怖さを声高に訴えている。
「脳震とうを患って一番辛いのは、心身ともに状態が安定しないこと。今日は状態がいいと思っても、明日になると180度変わってしまう。一体脳の中で何が起きているか目に見えればいいけれど、周囲の人はもちろん自分ですら何が起きているのか分からない。気分の浮き沈みが激しいことで、身近にいる家族を傷つけたり、チームメイトに苦労をかけたりすることが、本当に辛かった。なかなか理解されづらいものなんだ」
後遺症として、青木とモーノーが口を揃えるのは、3次元としての空間を把握することの難しさと、咄嗟の判断でする動きの鈍さだ。