青木宣親も今季復帰は困難に MLBでも頻出する脳震とうの怖さ

青木が取り組むリハビリメニュー、「繰り返すうちに徐々に症状が軽くなる」

 例えば、首だけ動かして急に後ろを振り返った時、一瞬空間全体が歪んだように感じ、車酔いしたような気分になるという。野球のプレーで言えば、モーノーの場合、一塁線を抜けそうな強烈な打球に反応しづらくなったそうだ。この症状を緩和させるためには、同じ動作を繰り返しながら、少しずつ体を慣れさせていくしかない。

 現在、青木が行っているリハビリトレーニングの1つも、目や体を使った反射神経を試す数種類のテストを繰り返しながら、体に慣れさせる作業だという。「トレーニングをした後は、しばらく気持ち悪い状態が続くけど、繰り返すうちに、徐々に症状が軽くなるらしいですよ」と話す。

 頭部に衝撃を受けたり、脳震とうの症状を訴えた野手の打率が、負傷後は負傷前に比べて低下しているという研究論文もある。アメリカン・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディシン誌に今年3月に発表された論文によると、2007~2013年に脳震とうを負ったメジャー野手66人の打率を、負傷した日から前後2週間をサンプルとして抽出してみると、負傷前2週間は平均打率が2割4分9厘、出塁率3割1分5厘、長打率3割9分3厘だったのに対し、負傷後2週間はそれぞれ2割2分7厘、2割8分7厘、3割4分7厘に下降している。

 執筆者のロチェスター大学で救急医療を専門とするジェフリー・バザリアン教授は「日常生活に戻るのと、野球ができる状態に戻るのは、また違う」と指摘し、戦列復帰までの期間を延長したり、手続きを改善するべきだとしている。

 野球界に限らず、スポーツ界全体として、今後さらに脳震とうに関わる研究が進められるだろう。他の怪我と同様、リスクばかりを考えていてはスポーツそのものが成り立たなくなってしまう。だが、頭部は対応が難しい場所だけに、「気合で治る」という精神論で押し切ったり、「気のせいだ」と軽視したりするのではなく、慎重すぎるくらいの注意喚起を呼び掛けていくべきなのかもしれない。

【了】

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

佐藤直子 プロフィール

群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。

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