ナ・リーグでのDH制導入へ、盛り上がる論争 得する球団の代表例は…?
本来は捕手も、慣れない左翼を任される強打者シュワーバー
2014年ドラフト1位でカブス入りしたシュワーバーの本来のポジションは捕手だ。若干22歳。マイナーでは、1Aから3Aまで駆け足で登り、出場試合は147試合ながら34本塁打、打率3割3分3厘、出塁率4割2分9厘、長打率6割1分3厘と、打席でケタ外れの成長を遂げた。その結果、ドラフトから約1年後の昨年6月6日にメジャーデビューを果たすという異例の出世につながったわけだが、守備の話になると残念ながら評価の声はトーンが下がる。
もちろん、シュワーバー自身は捕手というポジションにプライドを持っているが、往々にして本人の思いと周囲の評価は一致しない。また、現在カブスにはモンテロとロスというベテラン捕手コンビがいることもあり、入団当初からマイナーでも左翼守備にも就くようになった。
いくら打撃がよくても、メジャーレベルで捕手枠が空かないから昇格できない、というジレンマを避けるため、首脳陣が取った策は見事にハマった。第3の捕手兼左翼手として昇格したシュワーバーは、最終的に打率こそ2割4分6厘で落ち着いたが、273打席で16本塁打、長打率4割8分7厘を記録。パイレーツとのワイルドカードゲームで本塁打を放つなど、肝の据わった勝負強い打撃でファンを魅了するが、同時に慣れない左翼での拙守も繰り返し、ファンはもちろん関係者も一喜一憂させた。
悲願のワールドシリーズ優勝を目指すカブスは、オフに積極的補強に乗りだし、外野手ヘイワードと長期契約を結んだ。さらに、今季はシュワーバーを捕手ではなく外野手として登録。右翼ソレア、中堅ヘイワード、左翼シュワーバーの外野手トリオを目指す方向だが、守備のことを考えると実は左翼はベテランで打撃にも定評のあるコグランでいきたいところだろう。そこで浮かんでくるのが、冒頭の願い「ナ・リーグにDH制を導入しよう」というわけだ。シュワーバーをDHで使えたら、カブス打線はメジャー随一の強力打線となることは間違いない。カブス・ファンでなくとも、少し興味はそそられる。
カブス・ファンの身勝手な願いがコミッショナーの決断や労使協定の内容に影響を与えることはないが、もし本当にDH導入が決まった時に彼らが喜ぶ姿を思い浮かべると、少し微笑ましくなる。
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佐藤直子●文 text by Naoko Sato
佐藤直子 プロフィール
群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。