知られざる裏方の存在 選手を支えるプロフェショナルたち
メジャー独特? 「トラベリング・セクレタリー」と「クラビー」
ユニフォーム組はそれぞれが何役も担っている場合が多いが、それ以外で一番重要な役割を担うのが「トラベリング・セクレタリー」と呼ばれる役職だ。
表舞台に出てくることは稀だが、彼らは選手、コーチ陣、チームに帯同している全ての者たちが居心地良く過ごせるようにする潤滑油のような役割を担う存在だ。移動で利用するチャーター機を扱う航空会社、バス会社とのやりとり、宿泊するホテル、そして選手の家族に関する要望や生活面でありとあらゆる面をサポートする。
遠征中はもちろんだが、いくら本拠地とは言えシーズンオフは別の街や国で過ごす選手が大半なため、シーズン中は「ホーム」のおススメレストランや、地元スポーツ観戦に訪れたい時など、選手が一番に頼るのはトラベリング・セクレタリーだ。いわゆる彼らはホテルのコンシェルジュの一面も持ち合わせる必要がある。選手の移動が目まぐるしいメジャーリーグ、そしてマイナーリーグでは、彼らの段取りの良さが必要不可欠だ。マイナーから昇格する選手が試合に間に合わないという事態は作ってはならないのだ。
余談だが、ボストン・レッドソックスが2008年、ロサンゼルス・ドジャーズへマニー・ラミレスという看板選手をトレードで放出した話は、みなさんの記憶に残っているかもしれない。これはすでに報道でも出ているが、その要因となったのはトラベリング・セクレタリーとのいざこざだった。もちろんトレードの理由は1つではないだろうが、チームがそれだけトラベリング・セクレタリーの存在を重要視していることがうかがえる出来事だったと、記憶している。
メジャー特有の役職で言えば、「クラビー」と呼ばれる存在もそれに含まれるだろう。シーズン中は選手たちが自宅よりも長い時間を過ごすクラブハウスを管理し、洗濯、用具の手入れなど、選手の世話をしてくれる存在だ。基本的にホーム側に5~6人、そしてビジターチーム用にも同様の人数がスタッフとして存在している。その中でもチーム職員として雇われているのは、多くても3人程度。それ以外はアルバイトのような扱いだ。その懐事情も大半の選手たちは理解しているため、「チップ」という合理的な制度で仕組みが成立している。
遠征の際には、クラブハウス内でもお世話をしてくれるスタッフが随時存在する。基本的にチームに帯同する自チームの用具担当者は1人もしくは2人なので、敵地に行ってもサポートをしてくれるスタッフが存在するのは、選手たちにはありがたいことだろう。
同地区であればシーズン中何度もそこを訪れるので、自然と関係は深くなっていく。良いクラビーは対価としてチップを貰えるが、これも選手に気持ちよく払わせるかどうかはそれぞれの腕の見せ所だ。何度も訪れている選手の「お気に入り」アイテムをしっかり用意しておくと、彼らからの信頼も増すだろう。メジャーの規定ではクラブハウススタッフに毎日支払う額というのも、あらかじめ決まっている。それ以上の額となるかはクラビーたちの「おもてなし」次第だろう。
試合前後の食事、ロッカーの配置、用具や練習着をどのように掛けておくかまで選手たちはルーティーンを大切にするため、それをサポートできる人材は喜ばれる。球団の職員がライバルチームの選手を気持ち良くプレーさせるというのも皮肉なことだが、これもメジャーリーグの仕組みなのだろう。