通算228盗塁、元G鈴木尚広氏が明かす盗塁の極意「投手を真面目に見ない」
スタートを速く…身体の力みを取るために意識したこととは?
――盗塁する時にスタートを切るきっかけにしていた投手の仕草はありますか?
「僕は何か1つの仕草に目を光らせるんじゃなくて、風景の中にピッチャーがいる状態にして、全体が見える状態を作っていました。ピッチャーは真面目に見ちゃダメです。真面目に見過ぎると、視点が1点に集中して視野が狭くなる。しかも、1点を見つめると身体全体に力みが生まれるんです。ガチガチの状態から動き出すのは難しい。ピッチャーでもバッターでも初動には力感がないんですよ。弛緩しているからこそ、筋肉は爆発的な働きをするんです。筋肉が固まっていたら、爆発的な働きはできません」
――なるほど。見方1つ変えるだけで、身体の力みが調整できると……。
「そうなんです。しかも、盗塁ってピッチャーの方を向きながら、横に走り出さなくちゃいけない。だから、ピッチャーを見過ぎて身体が前傾になると、横へのスタートが切りづらくなるんです。そうすると、やっぱり冷静に広く視野を持つっていう意識でピッチャーを見た方が、横へいいスタートが切れます。
盗塁って、真っ直ぐ真横には走れません。どうしてもピッチャーの方を向いている分、そちら側に数歩分膨らんでしまう。あの(塁間)30メートルの中で、その数歩のロスがどれだけ自分にとってマイナスになるのか。そのロス=無駄を省けば、コンマ何秒でも速く真っ直ぐの軌道に乗れれば、盗塁が成功する条件は整うわけです。
みんな、いかに足が速くなるか、ということだけに囚われていますけど、それだけじゃない。感覚的な反応、つまりスタートが遅ければ、いくら足が速くても、あの30メートルの距離はなかなか埋まらないんですよ」
――足が速ければいいってものではないんですね。
「足が速いっていうのは1つの条件です。それが生かせるかは別の話。生かすためにも、自分なりのデータ蓄積は必要です。プロ野球は毎年新戦力が入ってきますけど、ほとんど同じピッチャー。塁上でもベンチでも、常に彼らを見て特長を把握しておけば、対応できるようになる。走ることが前提の代走って完全に受け身なんですけど、そうすれば勝負を五分五分にもできるわけですよ。そこで盗塁に成功して実績を積めば、さらに勝負の比重は僕に有利に変わる。今度は僕じゃなくて投手が受け身になるわけです。
心理戦を仕掛けることも大切なこと。いかに相手の気を狂わせるか、惑わせるか、考えさせるか。ピッチャーにはランナーの顔は見えないけど、キャッチャーはよく見てるんですよ。弱気な顔をしていると『こいつ走れないな。球種を変えよう』とか。だから、僕はあえて笑ってましたね」