パドレス斎藤隆氏が唱える“球界改革” 日米両国の野球を経験して見えたこと
政治、医学、経済…さまざまな分野の優秀な人物を巻き込みたい
たとえ無名のままユニフォームを脱ぐ日が来ても、夢に挑戦した日々がまったく無ではなかったという保障があれば、高校や大学卒業と同時に野球に別れを告げる選手は減るかもしれない。野球選手という職業が、より現実的な部分で魅力を増せば、アマチュアを含む野球界全体の引き上げにもつながるだろう。斎藤氏がこういった訴えを口にするのも、日本やアジア球界の将来に危機感を持ちながら、さらなる発展を願っているからだ。
「10年くらい前までは、メジャーと日本球界の売り上げは、ほとんど変わらなかった。それがこの10年でメジャーが急速に伸びて、2014年には約1兆600億円の売り上げを記録した一方、日本はほぼ変わっていないんですよね。どうやったら、日本球界も発展できるのか。それを考えた時に、メジャーから学べることもあると思います。
例えば、日本は今まで『野球が上手にプレーできる奴だけグラウンドに残れ』といった昭和のスタイルで、野球に携わってくれる優秀な人材を排除してきた部分がある。だけど、これからは高校や大学でも、スポーツマネージメントという観点から野球部の運営に携わるポジションを作ってもいいと思うんですよ。
最近、東大野球部が強くなってきたけど、率先して医学や政治を目指す学生を野球部に所属させて、野球と政治、野球と医学を結びつけた形で盛り上げている。野球が上手くなくても、野球に携わる方法はいくらでもあると思うし、優秀な人材は積極的に巻き込んでいくべき。メジャーのフロントには、選手としての実績はないけど、経営者だったり情報分析だったり、違った分野に長けた人物がたくさんいます。
日本の経済界は、世界にたくさん優秀な人材を輩出している。なのに、野球界が大きく発展できずにいるのは、単純に野球をサポートしてくれる人物が減っているんじゃないか、と思うんです。だからこそ、いろいろな才能を持った人物を積極的に巻き込んでいくべきじゃないかと」
そもそも、日本のプロ野球チームは親会社でもある企業の広告塔である意味合いも強い。だが、日本のトップ企業が世界市場で勝負をする今、日本で球団を所有する意味について再考される可能性もある。もし企業が球団を持つことに利益や意味を見出せなくなったら…「野球界は消滅の危機とまでは言わないけれど、それくらいの危機感は持った方がいいと思う」と斎藤氏は話す。
「このままの形態では、日本の中だけで野球を成立させるのが難しくなってくるんじゃないかと。おそらく、韓国や台湾も同じような状況が生まれてくる。それぞれが危機にさらされる前に、アジア全体として野球界を統一して、協力していくべき。そこでリーダーとして主導権を握るのは、やっぱり日本だと思うんです。
メジャーが中南米の野球界を巻き込み、ヨーロッパやアフリカ、中国に進出する様子を見る限り、世界の野球がなくなることはない。でも、アジアの野球はちょっと危うい面が多い気がします。アジアにはすでに素晴らしい野球文化がある。メジャーと同じことをするのは到底無理だけど、日本独自の方法でアジアのリーダーシップを取ることはできると思うんです」