“不器用を自認する男”DeNA筒香嘉智、知られざる進化の裏側・前編
成長を手助けしてくれた兄の存在、「僕はすぐにはできないんで地道にやるしかない」
エクササイズで重視するのは、身体の「内部」の動きだ。なぜ身体の内部の動きが大切なのか。これは矢田氏の治療理念と一致する。怪我や病気の症状が現れるたびに対処する対症療法のように、即効性の結果を求めて小手先だけの技術を身につけても、それは一過性のものに過ぎない。だが、症状が現れる根本を探って整える治療のように、動きが発生する身体の内部を整え、自由に動くようにしておけば、それに付随する身体の末端部分も無駄なく動くようになる。ただし、身体の内部は目に見えない部分だけに、頼れるものは自分の感覚だけ。地道にエクササイズを繰り返しながら、身体の中で生まれた動きや違いを感じ取っていくしかない。
矢田氏と出会った当時、中学生だった筒香がこの話を理解していたかというと……。
「兄に『大事だからちゃんとやれ』って言われて、週に1回矢田先生のところに連れていってもらっていたんですけど、身体の中がどう動いているとか、そんなのはまったく分からなかったです(笑)」
現在、体育教師をする10歳年上の兄は当時大学生。野球選手を目指す弟にできるだけ多くの経験を積ませたいと、いい練習法やトレーニングがあると聞くと、講習会やセミナーに出掛けて体験させた。その中でも、当時怪我がちだった弟の治療と原因改善の意味も含め「合っているな」と感じたのが、所属する堺BBでも指導していた矢田氏のエクササイズだったという。
腹下三寸にある丹田に身体の重心を意識しながら行う、ストレッチやヨガにも似た動きのあるエクササイズを、最初からうまくこなせたわけではない。器用か不器用かで言えば、筒香は自他共に認める不器用タイプ。子供の頃から、何をするにしても他人より少し時間が掛かったという。「ただし、できるようになるまで繰り返し練習する根性は、誰よりも秀でてますよ」と、矢田氏は話す。それは今でも変わらない。できないことはできるようになるまで繰り返す。小さい頃から染みついた、筒香流の上達法だ。
「すぐできる人はうらやましいですよ、できない人からしたら。でも、もう自分で分かってるんで大丈夫。昔からそうです。僕はすぐにはできないんで、地道にやるしかない。時間を掛けて身に付けるからこそ分かることもあると思うんですよね」