聖地のマウンドは譲らない― 乙訓を初の甲子園に導いた左右のエース

マウンドを分け合ってきた2人、“投げ切る”思いを胸に

 だが一方の富山もそんな川畑のことを羨望のまなざしで見つめてきた。 

「自分が初めて投げた試合は確かに早かったですけれど、先発する試合が川畑の方が増えた時期は悔しかったです。入学直後は自分も川畑も調子の波があったけれど、川畑は球の質が徐々に安定してきて、自分との差ができてしまいました。背番号の差はそこだと思います」 

 1年の秋。能力を評価してもらったとはいえ「投げてみないと分からない」と言われていた富山は、周りからなかなか信頼を得られなかった。1年の冬は、苦手なランニングが中心のトレーニングが多く、ついていくのがやっと。春になると球速やキレが安定してきたが、感情のコントロールはなかなかできなかった。「ピンチの場面での冷静さも足りない。どうしても感情を出してしまうところは今でも課題です」。 

 それでも川畑は、それが富山の良さだと捉えている。「気持ちを前面に出してバッターにボールと気持ちで向かっていける。自分にはなかなかできない」。川畑は冷静さが持ち味だが、気持ちをボールに込められる富山をうらやましくも思った。 

 つまり、2人はお互いにないものを持ち、マウンドを分け合ってきた。2人の現在の課題は意外にも同じだった。「去年までは完投させてもらった試合では後半に点を取られてしまった試合が多くて、ほとんどが疲れで手投げになっていたんです。ですので、この冬は下半身強化と体重アップがテーマです」と川畑が話せば「1試合を通して、調子を保つことがテーマです」と富山。これまでは主に継投の試合が多かったが、やはり自分が1試合を投げ抜きたいという思いがにじみ出ている。 

 2人は互いを「ライバルであり仲間」と話す。初の甲子園でも、もちろん2人でひとつになり全国の強豪に立ち向かう。だが、“投げ切る”精神を全うして初めて全国優勝という文字がくっきり見えてくると2人は信じている。 

(沢井史 / Fumi Sawai)

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