絶大な信頼が生み出した逆転サヨナラ3ラン 明徳エースは投球スタイルが一変
1点を追う9回、無死一、二塁から3番・原田がサヨナラ3ラン
第90回記念選抜高校野球は30日、大会8日目を迎え、第1試合は日本航空石川(石川)が3-1で明徳義塾(高知)を下し春夏通じ初のベスト8入りを果たした。1点を追う9回無死一、二塁から3番・原田がサヨナラ3ランを放ち、秋の王者・明徳を破った劇的な一戦を沖縄・興南高校で春夏通算6度の甲子園出場を果たし、京都大学などでも監督を務めた比屋根吉信氏(66)に解説してもらった。
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劇的なサヨナラ勝ちで勝利した日本航空石川。3番・原田のサヨナラ3ランは見事の一言だ。この原田は初戦から素晴らしい打撃を見せていた高校生レベルではトップの技術を持っている打者だろう。
追い込まれるまでは初球からフルスイングで相手にプレッシャーを与えるが、一転して追い込まれるとノーステップ打法で粘り強い軽打を見せる。4回の第2打席では無死一塁で打席に向かったが、中村監督は犠打のサインを出さなかった。6回の打席でも結果的に中飛だったが明徳エース・市川のボールを捉えていた。ホームランの前兆ともいえる素晴らしい打球だった。
それだけ信頼している打者ということが分かる。4番・上田もそうだが、この中軸2人は今大会ではトップクラスの打者だ。0-0で中盤までいくと、どうしても犠打で得点圏に進め先制点が欲しくなるが、それ以上に得点する確率が高い打者ということだ。
9回を無失点で切り抜けたことも大きかった。日本航空石川の3番手・重吉が1死満塁を併殺に打ち取り無失点。この流れを断ち切ったことが裏の攻撃にもつながった。対する明徳義塾はエース・市川の投球スタイルが初戦とは対照的だった。
中央学院との初戦では140キロ中盤のストレートを軸に力で押す投球だったが、終盤に制球が乱れ苦戦した。その反省を生かし、この日は腕の位置を体に近づけ、スピードを殺し制球重視の投球に切り替えた。序盤、中盤とその成果は随所に見られたが、日本航空石川は終盤に力でねじ伏せた形となった。
甲子園を勝ち抜くため反省を生かし、修正することができた。これは難しい問題だが、スピードボールを殺しモデルチェンジした明徳の市川は迫力に欠けた。サイド気味から投げる140キロ中盤の直球は打者にとってはやっかいで、そこが持ち味だったと私は見る。勝利を目前としてまさかのサヨナラ負け。これを糧にして明徳は夏にまた一段とレベルアップし甲子園に帰ってくるだろう。
〇比屋根吉信 (ひやね・よしのぶ)
1951年9月19日、兵庫県尼崎市出身。66歳。報徳学園高から大阪体育大に進学。卒業後は西濃運輸で日本選手権にも出場。1976年に沖縄・興南高の監督に就任。仲田幸司、デニー友利ら多くのプロ野球選手を輩出。監督生活10年間で春夏通算6度、甲子園に導き1980年の選手権大会ではベスト8入りするなど同校を強豪校に作り上げた。その後は社会人野球・阿部企業、熊本・有明高の監督を務める。2010年から12年まで関西学生野球リーグの京都大学の監督を務め、田中英祐(元ロッテ)を育てた。
(Full-Count編集部)