各地で相次ぐ波乱 強豪でも苦戦する初戦、智弁和歌山の名将が語る難しさ

智弁和歌山が高野山を相手に12-0で快勝【写真:沢井史】
智弁和歌山が高野山を相手に12-0で快勝【写真:沢井史】

智弁和歌山は6回参考記録ながら無安打無得点を達成

 第100回全国高等学校野球選手権記念和歌山大会は14日に大会第4日目を迎えた。今春のセンバツで準優勝した智弁和歌山が今夏の県大会初戦で高野山を相手に12-0で快勝した。

 打っては12安打12得点、投げてはエースの平田龍輝が6回参考ながら無安打無得点に抑えるなど投打で圧倒した智弁和歌山。さすがセンバツ準優勝校という戦いぶりだったが、どんなチームでも警戒しているのが初戦の入り方だ。

 ここまで今夏の大会は九州などを中心に前評判の高かった実力校が初戦で敗れる事態が相次いでいる。高嶋仁監督の教え子でもある川崎絢平監督率いる明豊(大分)は、県内で最も注目されている実力を持つが、初戦で大分工と接戦を演じ、延長戦を制した。その試合をインターネットで見ていたという中谷仁コーチも「初戦の怖さですね」と語る。初戦は何もかも初づくしだからこそ、見えない部分があるのだろうか。

 試合前の取材で、高嶋監督に尋ねた。「高嶋監督が思う、初戦を戦う上での戦術は何ですか?」。すると高嶋監督はこう返した。

「そんな戦術、あったらこちらが教えてほしいもんですよ」

 甲子園で68勝をあげている名将でも、答えが見つからないほどなのだ。だが、その後こう続けた。

「まずは先取点を取ることではないでしょうか。1点でも。とりあえずホームランを打てる選手には打ってこいとか狙ってこいとか、そういうハッパはかけますね」

 とにかく先に点を取る。先攻を取った智弁和歌山は、初回に2死一塁の好機は逃したものの、2回は先頭の5番・冨田泰生が四球で出塁するとそこから相手投手がリズムを崩したスキにつけ込み打者一巡で5点を取った。そこから立ち上がりに力みが見られた先発の平田が立ち直り、変化球を低めに集める。投手がリズムを取り戻したことで攻撃にも良い流れをもたらし、6回にはさらに7点を追加して試合を決めた。

 主将の文元洸成は言う。「普段の試合では後半勝負とよく言いますが、初戦に関しては後半勝負は怖いので早い段階から点を取らないといけないと思いました。今日は2回に大量点を取れたことで気持ちに余裕ができました。早く点を取るには相手投手の球をしっかり見て見極めること。今日は(高野山の先発の)藤原君の緩い球をちゃんと見極めることが出来た。今日の勝ちで安心はできませんけれど、初戦でこういう勝ち方ができたのは良かったです」

 集中打で相手にダメージを与え、終始流れをものにしていた智弁和歌山。指揮官はキーマンを試合前「中軸打者」と言っていた。「中軸の誰かが1人打てば、後が続く。とにかく誰でもいいので打って欲しい」と話していたが、その期待に応えたのが3番の林晃汰だった。センター返しを徹底し、2回には火の出るような痛烈な当たりを左中間に飛ばした。「ポイントでしっかり打てたし、自分の思う打球だったと思います」と笑顔で振り返った。

 これだけ快勝したのに、高嶋監督は「今のチームの状態はまだ4分くらいちゃうかな。まだまだですよ」と苦笑いを浮かべる。鬼門を突破した紀州の名門は、まずは今夏の甲子園切符を目指して、一段ずつ階段を登っていく。

(沢井史 / Fumi Sawai)

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