上位打線、守備力…17年ぶり最下位の要因は? データで今季を振り返る【阪神編】

弱点をドラフトでどのように補ったのか

 次に、阪神タイガースの各ポジションの得点力が両リーグ平均に比べてどれだけ優れているか(もしくは劣っているか)をグラフで示して見ました。そして、その弱点をドラフトでどのように補って見たのかを検証してみます。

阪神の各ポジションごとの得点力グラフ
阪神の各ポジションごとの得点力グラフ

 グラフは、野手はポジションごとのwRAA、投手はRSAAを表しており、赤ならプラスで平均より高く、青ならマイナスで平均より低いことになります。

 攻撃面でセンターの落ち込みが著しく、レフト福留孝介、ライト糸井嘉男のベテラン勢のプラスが際立つグラフとなっています。ドラフトで藤原恭大、辰己涼介と有望な外野手を立て続けに1位指名したのも納得です。しかしどちらもくじで成就せず、大阪ガスの近本光司を1位指名します。いずれの選手も「関西のチームに所属する俊足巧打の外野手」だったという意味では、一貫した方針に基づいた指名だったと言えるでしょう。

 近本は2017年、18年の都市対抗、日本選手権で通算打率.413、OPS1.025を記録する巧打者で、18年の都市対抗では打率.524で首位打者となり、4盗塁も決め大会の最優秀選手賞に相当する橋戸賞を受賞しています。一塁到達タイムは3.9秒で、阪神勢では高山俊、糸原健斗に匹敵するスピードの持ち主です。

 また3位にはHondaの内野手、木浪聖也を指名。セカンド、サード、ショートを守れるユーティリティーな選手で、広角に打てるバッティングが持ち味とのこと。近年、糸原健斗をはじめ、西武の源田壮亮やロッテの藤岡裕大と即戦力としてチームに貢献する社会人野球出身の内野手の活躍が目立ちます。木浪にも現状マイナス評価の内野手陣にいち早く加入しチームに貢献してほしいものです。

 ただ、現状のタイガースで最も不足しているのは長打力であり、本来なら日本ハムの中田翔や(中田はFA権を行使せず残留を決めました)、FA宣言していた丸佳浩(丸は巨人への移籍を決断しました)といった選手の獲得で、攻撃面で大きなマイナスとなっているポジションを補強することに尽力されてもよかったのではないでしょうか。

 人気球団ゆえに、センシティブな交渉事の情報が一部のマスメディアによって先行報道がなされたり、ファンからの大きな期待をプレッシャーに感じてしまったりと、決してプラスのイメージだけではない側面もありますが、効果的な補強と矢野燿大新監督体制での若手育成で、攻撃力、守備力の向上に務めてほしいと願うばかりです。

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。

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