履正社を支えるプレーイングマネージャーという仕事 西川黎が履く“二足のわらじ”
初優勝を目指す履正社のキーマン、昨年は大阪桐蔭・根尾と対戦し中直
第91回選抜高校野球大会(23日から12日間、甲子園)で初優勝を目指す名門・履正社(大阪)では主将と同じくらい重要なプレーイングマネージャーという役目がある。新チームが発足して間もなく岡田龍生監督が指名してその年のプレーイングマネージャーが誕生するのだが、今年、その役目を3年の西川黎内野手が担っている。
プレーイングマネージャーとは、文字通りグラウンドレベルでマネージャーとしてチームを支えるのが仕事だ。全体練習が始まる前に選手の出欠確認を取り、チームで定期的に行っている食事のアンケートの回収、練習メニューの確認や道具管理も行う。
キャプテンが試合でのリーダーなら、プレーイングマネージャーはグラウンドでのキャプテン、と言った方が分かりやすいだろう。ただ、出欠確認はグラウンドに選手が散ってしまうと数えるのが大変で「自分が先に行かないといけないのですが、(学校からグラウンドに向かう)バスに一番先に乗れるとも限らないし、バスがグラウンドに到着したら、指導者に到着した報告もしないといけないんです。その間に選手はバスを降りてしまうので、いかにスムーズに数えるかがポイントなんです」。これまで履正社では1学年20人未満の部員数だったが、新3年生は26人。1年下の部員は30人を超える。全員の状況を把握するのはひと苦労だ。
昨年の8月。新チーム結成間もない頃に岡田監督に呼び出されてプレーイングマネージャーを打診された。責任のあるポストに「先輩方から大変だって聞いていたので自分が出来るのか不安しかなかったです」。最初は手探りの状態だった。当時の3年生にアドバイスを受けながら秋は何とかこなしてきた。
先輩が卒業したこの冬は、練習スタイルが昨年までと変わり、紅白戦よりも場面を想定したケースバッティングが増えた。ウエートトレーニングの方法も変わった。グラウンド上にはかつてテニス部が使っていたコートを使ってテニスボールを使ったノックなども行う。その隣にはネットをカゴ状に組み立てた打撃練習場があり、そこでの打ち込みをし、グラウンドではフリーバッティングをするなど、様々なメニューをいかに効率よくこなせるか。西川の頭は常にフル回転している。
「初めてのことが増えて戸惑うことも多いです。班分けをしてメニューをいかにうまく回すか。多田先生(コーチ)とここはこうした方がいいと話しながらやっています」。
プレーヤーとしては、長打は少なくとも後ろに確実に繋げる打撃が西川の持ち味だ。ただ、大阪大会では調子が上がらず試行錯誤の繰り返しで、公式戦の打率は10試合で2割9分。強打者の3番・小深田大地、4番・井上広大の存在感が強いからこそ、主に5番を打つ西川の確実性も問われる。
「秋は自分の力不足を感じました。打撃をもっとレベルアップするのが自分の課題です。ただ、去年と比べて今年はセンバツがあるので、冬のグラウンドの雰囲気が全然違う。競争意識が高くて、良い雰囲気で練習が出来ていると思います」。
並みいるライバルの中、選手としても技量を上げるためにこの冬は必死にバットを振り続けてきた。
昨夏は背番号19でベンチ入り。北大阪大会の準決勝・大阪桐蔭戦で7回の2死一、二塁の場面で代打で打席に立った。結果は中直だったが、独特の雰囲気は今でもしっかりと記憶している。「根尾さん(現中日)のボールも凄かったですけれど、球場の雰囲気が独特でした。今でも忘れられないです」。
試合はあと一歩で王者を追いつめながら屈したが、その悔しさを引き継いで現チームはスタートした。そしてその中で担う重役。「自分の練習のことも考えないといけないし、今でも自分はまだちゃんと出来ているとは思えないです。でも、自分がチームをちゃんと見渡していかないとチームもうまく回らない。常に周りに目を配ることは大変ですけれど、こういう役目をこなせるようになれば、将来社会に出て役に立つことはあるはずです。もちろん選手としてもチームに貢献できるようになりたいです」。
履正社は大会1日目の第3試合で星稜(石川)と激突。二足の“ワラジ”を履き、挑む高校野球ラストイヤー。表でも裏でもチームを支えながら、初めての春の大舞台を踏む。
(沢井史 / Fumi Sawai)