“山本昌2世”を目指す中日福が得たケガの功名 「あの地獄に比べたら、まだ楽」

憧れの山本昌氏の背番号「34」を背負う「もはや自分の中で神格化しています」

 あえて気負わない独自のスタイルは奏功した。心の余裕は視野を広げ「マウンドから、打者が何を待っているか分かる時も出てきました」。7月以降、22試合に登板して12ホールド、防御率1.57(8月19日時点)。下位に沈むチームが正念場を迎える中、8回のロドリゲス、9回の新守護神・岡田へと繋ぐ役目を担った。

 故障を経て、心持ちとともに投球スタイルも変化した。多少の制球には目をつぶった「イケイケドンドンのパワーピッチャー」の自分はいない。それでも、持ち味のひとつである直球は、1年目の最速と変わらない147キロを計測。「納得いく球をコースに投げ切れるようにはなってきました」とうなずく。

 ずしりと重い背番号「34」は、少しは似合ってきただろうか。50歳まで現役を続けたレジェンド左腕・山本昌さんは、憧れであり目標。新人研修で講演を聞いた際には一言一句逃さずに書き留め、要点を清書して寮の自室に掲げていた。その言葉の中には、こんな一文もあった。

「苦しい時は多々ある。しかし、それをやらないとプロとして生活はできない」

 その通りだった。乗り越えたからこそ、道は開けた。

 球場で会うといつも声を掛けてくれる偉大な先輩の存在は、今でもまぶしすぎる。「もはや自分の中で神格化しています」。そんな“神”から少しでも学び取ろうと最近、伝家の宝刀「スクリュー」の投げ方を本格的に教わった。「マサさんのスクリューは本当に難しい」と習得には時間がかかりそうだが、成長の種を見つけようと余念はない。

 福の投球フォームが、どことなく自身と似ていると周囲から言われた山本さんは「うれしいですね」と言ったという。それを人づてに聞いた福は、子どものように喜んだ。飛躍の光が見えた4年目。「まずはシーズン終わるまでしっかり今の場所で投げ続けることです」。ケガの功名から生まれた気構えを武器に、背番号「34」の後継者としてふさわしいだけの存在感をまとっていく。

(小西亮 / Ryo Konishi)

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