履正社が攻略、星稜・奥川に決勝で明らかな異変…データで楽しむ夏の甲子園【第14日目】

奥川は疲労でボールが高めに? 鍛え上げられた履正社打線は直球への強さ見せる

 打率、OPS、wOBAといった打撃指標で比較すると、星稜が履正社を上回っていることがわかります。しかし履正社の清水、岩崎の両投手がランナーが出てからも併殺打2つを奪うなど落ち着いて要所を締めるピッチングができたこと、さらには星稜が2回盗塁で失敗してしまったことが要因となり履正社の失点を「3」で食い止める形となりました。

 中1日で決勝のマウンドに立った星稜の奥川投手。ここまで打者111人に対して385球、一人当たり3.47とかなり少ない投球数で乗り切り、防御率0に抑えてきました。ですが疲労の蓄積はあったはずです。この日の奥川投手は明らかに異変が起きていました。ここまで20%台で抑えてきた高めへの配給は序盤3回まで40%近くに跳ね上がっていました。特にスライダーのコントロールが効かず高めに浮いてしまっています。その甘くなったコントロールを鍛錬された履正社打線が見逃すはずはありません。3回までで空振りは2つ。しかもストレートのみ。ここまで20%の空振りを奪ってきたスライダーでの空振りは3回まで1つもありません。9回を通じても空振り奪取率は9%に留まりました。

 さらには奥川投手が失点した3回と8回にはある共通点があります。それは味方が得点した直後のイニングであること、もう一つは「打者一人に8球以上投げて出塁を許したこと」です。先ほども申し上げたように奥川投手は一人当たり4球以下で抑えており、8球投じたのは準決勝、中京学院大中京の4番・藤田選手のみ。しかもその際はゴロで打ち取っています。3回には池田選手が、8回には内倉選手が150キロ近いストレートをことごとくファールで食らいつき出塁にこぎつけました。履正社は準決勝までストレート打率.409、空振り率7.5%と高速のストレートに対しても自信を持って臨んでいました。これは日々の鍛錬の賜物でしょう。

 3回表、2つの四球で2アウトながら走者一、二塁。ここでバッターボックスに立ったのは4番・井上選手。前の打席では読みが外れたのでしょうか、外角高めに入ったスライダーを見逃し、三振となります。それがあって迎えたこの打席、初球は先と同じように外角高めに来るスライダー。残像が残っていたのでしょうか、フルスイングし打球はセンターへ。逆転の3ランという結果を生み出しました。

 8回には野口、岩崎の両選手がストレートをライナーで弾き返すタイムリーヒットで勝ち越しに成功。少ないチャンスながら、日頃の成果を要所で発揮することができた履正社が夏の大会では初めての優勝を飾りました。

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。

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