野球大国ベネズエラに異変… 政治的混乱が球界に与える影響 元記者が伝える現状とは

配給される食料を求め、早朝から店に列を作るベネズエラの人々
配給される食料を求め、早朝から店に列を作るベネズエラの人々

国営石油会社PDVSAがリーグに運営資金を投入、その目的とは…

 2018年まで同リーグの球団で働いていた関係者は、PDVSAの資金投入について「ベネズエラでは12月に選挙が行われることが多く、国は国民の政府批判の目を野球へ逸らすことが目的。野球で国民が抱える不満のガス抜きをしようという意図がある」と分析する。試合の入場料は2、3ドル。日本円でも約210~320円程度だが、これは今や国民の平均月収とほぼ同額だという。もはや富裕層以外は日々の生活に必死で、球場に足を運ぶことなどできない。同時に、富裕層の多くが国外に脱出しているため、どこも球場はガラガラだという。前出の関係者は「子供に夢を与えたいという思いで働いていたが、国民の大半はその日の食べ物に困っており、もう野球どころではない。以前はファンが球場に足を運び、ユニホームなどのグッズを買うことでチームの運営が成り立っていたが、もはや国からの資金援助なしにリーグは成り立たない」と内情を明かす。選手たちは当然、表立って政府批判をすることはできず、ある元メジャーリーガーはベネズエラの政情について発言したところ、母国に住む家族のもとに軍人が圧力を掛けに押しかけて来たという。

 リーグはテレビ中継されるが停電が多く、さらに「生中継」と謳いながらも実際は約10秒ほどタイムラグがあり、スタンドから政府を批判するようなヤジが飛ぶと音声が消え、音楽が流れるのだという。国の検閲があるため、放送するテレビ局は国が定めたルールに従うしかない状況だ。前出の関係者は「カラカスの空港では米ドル札を持っていることが見つかると没収され、携帯もチェックされる。ベネズエラに批判的なことを書いているメールやSNS投稿が見つかると、携帯も没収される」と明かす。ベネズエラでは医薬品も慢性的に不足しており、入管で薬が“強奪”されることもあるという。

 ウインターリーグに参加したベネズエラ人選手は母国通貨のボリバルフエルテで給料を支払われていたが、日々通貨価値が下がっている「ハイパーインフレ状態」にあるため、昨季から米ドル払いに変わった。それでも若手選手の月給は500~600ドル(5万4000~6万5000円)程度と、他国のウインターリーグに比べて安い。一方、外国人助っ人の給料は、今やメキシコやドミニカ共和国よりも高くなってきているという。ベネズエラの治安悪化に伴い、プレーを希望する選手が激減しているためだ。かつては米独立リーグの選手に声がかかることは稀だったが、外国人選手が思うように獲得できず、昨年頃からは独立リーグの選手にもオファーが届くようになった。昨夏は米独立リーグでプレーしていた元DeNAの久保康友投手のもとにも、オファーが来たという。

 今季、ベネズエラのウインターリーグに助っ人として参戦予定の選手は、こんな事情を明かした。

「例えば、先発ローテに入れるレベルの外国人投手の場合、メキシコやドミニカ共和国では月1万2000ドル(約130万円)程度もらえるが、今のベネズエラなら月1万5000ドル(約162万円)もらえる。みんな危険を恐れて行きたがらないので、どの球団も金で釣って何とか選手を獲得しようとしている。これまでベネズエラでの報酬はメキシコやドミニカと同じ程度か少し安かったが、数年前から状況が変わった。危険度と給料の上がり方が比例している」

 実際、ドミニカ人やメキシコ人選手が母国リーグでレギュラーシーズンを終えた後、さらなる給与を求めてベネズエラのチームに“移籍”。1月のプレーオフ期間中だけプレーするケースも見られる。

ベネズエラ人選手が他国のウインターリーグでプレー、各所でその余波も発生

RECOMMEND