野村克也氏に「日本一のスコアラー」と認められた男が明かす秘話「ID野球の原点」

安田氏はユーモラスなキャラクターで親しまれ、漫画「がんばれ!!タブチくん」に登場
11日に死去した元ヤクルト監督の野村克也氏をして「日本一のスコアラー」と言わしめた、現野球評論家の安田猛氏が師の死去を悼んだ。
この日の朝、テレビのニュース番組で訃報に接した安田氏は「すごい監督だった」と改めて嘆息した。
野村氏のヤクルト監督就任初年度の1990年、安田氏は投手コーチを務めた。春の米ユマキャンプでの最初のミーティングが忘れられないという。「野村さんは『バッターには4種類ある』という話をしたんです。(1)長嶋茂雄さんのように、まっすぐを待って変化球にも対応できる『天才型』 (2)レフトかライトか、打つ方向を決めて打席に入るタイプ (3)高めか、低めかにヤマを張るタイプ (4)球種にヤマを張る『不器用型』。驚いたのは、現役時代に3冠王まで獲得した野村さんが『おれは不器用型。あらかじめ球種がわかっていないと打てない』と告白したことです。相手捕手のサインを盗む行為が厳しく禁じられるようになり、データを元に球種を読むしかなくなった。それがID野球の原点なのです」
その後、野村ヤクルトのスコアラーに転身。「印象深いのは、当時巨人の“ゴジラ”こと松井秀喜を分析した時のこと。普通、ホームランバッターというものは、ファーストストライクを非常に高い確率でとらえるものなのです。ところが、松井は対戦直前の6試合、計約30打席で1度しかファーストストライクに手を出していなかった。これはおかしい。調べてみると、松井はファーストストライクを見逃した後、それと同じ球種を4割の確率で打っていた。彼の狙いはそれだったのです。そうとわかれば、ファーストストライクはど真ん中の直球でもいい。そして、それと同じ球種を2度と投げなければ、打ち取れる可能性が高くなるわけです。この後、野村さんがマスコミに『うちの安田は日本一のスコアラーだ』と言ってくださったのです」。
こうして、現役時代には主戦左腕として活躍する一方、ユーモラスなキャラクターで親しまれ、漫画「がんばれ!!タブチくん」に登場する「ヤスダ」のモデルにもなった安田氏は、新境地を開いた。ID野球の申し子の1人である。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
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