笑顔で「ワシはまだ認めてないからな」―野村ヤクルトの“2番手捕手”が語る名将の記憶
「『考えることが大事なんだ』と言って頂いた」
野口氏にとって、野村さんからの教えはプロ野球界を行きていく上での“基本”となった。一人の人間としても“糧”になったという。その本当の凄さはどこにあったのか。
「野球のことをものすごく掘り下げている方なので、言われてみたら当たり前だということなのですが、選手はそれを特別に考えていることって実はあまりなかったりするんです。そういう小さいことでもすごく大事にして、いろいろ考えて、選手たちに伝えてくれた。それをやられたのは、野村監督だけでした。文字にしたり、言葉にして、いろんなことを順序立てて説明して『考えることが大事なんだ』と言って頂いた」
野村さんに言われて、ハッとすることの連続だった。
「もうそんなことだらけです。野球のことはもちろんそうですし、人生論みたいなことでも、『そんなこと考えたことないよ』ということもいっぱい出てきたので。言われてみればそうだけど、そんなこと1度も考えたことなかったな、と。野村監督がよく仰っていたのは『野球人である前に一社会人であれ』という言葉で、世の中に出て困ることもあってはいけないし、人としてしっかりしていないと野球での成功はない、と」
野村さんの考えは書籍としても多く残されているが、野口氏にとってはヤクルト時代に受けた座学が財産となっている。春季キャンプから行われていた野村さんの“授業”をすべてノートに記し、さらに驚くべき方法で体に染み込ませていた。
「現役のときは、毎年オフになるともう1回、ノートを書き直していたんです。1年間かけて野村さんのミーティングがあって、大体はキャンプで終わるのですが、それをシーズン中は見返しながらプレーして、シーズンオフに入って秋季キャンプも終わって自主トレ期間になったら、夜がすごく暇になるので、その時間を利用してもう1回(違うノートに)書き写していました。春季キャンプとシーズンの中で、野村さんの言動に変化があったかどうかも確認して、変化があった場合はそこに書き加えていました。球団が変わってからも、そういうことを積み重ねてずっとやっていました。ヤクルト時代はほとんど試合に出られなかったので、レギュラーになって気づいたこともそれに書き加えたりしましたね。でも、(移籍後に)書き加えることは実はあんまりなかったんです。それだけ野村さんはすごい方だったんですね」
多くの野球人の中に今も生き続ける“野村イズム”。野口氏にとっても、まさに人生を変える出会いだった。
(Full-Count編集部)