たった一言で変化球が激変…昨季11勝の中日柳が「呼び名はまだ不明」な球に見出す進化
中日柳は昨季自身初の2桁11勝をマーク「周りが思っている以上に、僕は必死です」
「おーー! きた! きた!」。穏やかな昼下がりのブルペンに、高揚感に満ちた声が響いた。沖縄・北谷球場。全体メニューは終わり、それぞれが課題に向き合う個別練習の時間だった。キャンプも最終盤に差し掛かっていたころ。中日・柳裕也投手は、湧き上がる手応えを忘れないように、何度も腕を振った。
その2日前。オープン戦初登板となった2月23日のDeNA戦で、3イニングを投げて6安打4失点を喫した。直球の最速は142キロとまずまずだったが、自らに与えた課題はほかにあった。「チェンジアップがことごとくダメでした」。大きな弧を描くカーブとカットボールの「曲がる系」が主体の右腕にとって、もうひとつ勝負球となる変化球の質を上げることが、開幕までのテーマだった。
プロ3年目の昨季、チーム最多の11勝を挙げて一気にブレーク。今季の開幕投手を任された大野雄大とともに、左右の柱としてチームを引っ張ってほしいという期待は痛いほど感じる。だからこそ、ふと思うことがある。「去年くらい勝てるんだろうか」。そんな不安を打ち消すのは、自身の成長しかないことは分かっている。柳にとって、チェンジアップはその足がかりでもあった。
この日も、座った捕手にチェンジアップを試投していた。柳の斜め後方から投球を見ていた阿波野秀幸投手コーチが、ふと話しかける。示されたのは、リリースの際の指の使い方だった。柳のこれまでの意識は、指からボールを“抜く”イメージ。教わったのは、シンカーのように少し外側に“引っ掛けて”投げる感覚。半信半疑の気持ちもありながら投じてみると、18.44メートル先の反応は想像以上だった。シンカーのような軌道を描くチェンジアップ。打者にとっては、なかなかミートポイントまで来ない球だ。
「おお、いいじゃん! (球に)奥行きあるよ!」。球を受けた三輪敬司ブルペン捕手と、打者役で左打席に立っていた赤田龍一郎ブルペン捕手が口をそろえた。自らの練習を終えて近くで見ていた守護神候補の岡田俊哉も、その球筋を見て大きくうなずく。柳の表情はパッと明るくなり「今のどうでした? 空振り取れます?」と何度も何度も反応を聞いた。
それから1週間あまり。3月4日の西武戦(ナゴヤ球場)で、オープン戦2度目のマウンドに上がった。4回終了時にノーゲームとなった試合で先発し、森友哉にソロは浴びたものの、4イニングでわずか2安打の7奪三振。「まだ呼び名は“不明”」だと言う新たな変化球は、ど真ん中にいってしまっても空振りが取れた。沖縄の地で得た手応えは、雨中の名古屋で自信に変わった。
もちろん、安心なんてしている暇はない。今はただ、精度を上げることに努め、投球の幅を広げたい。11勝の肩書きは、すこぶる重い。試合で打たれれば、すぐに「“2年目”のジンクス」だと言われるに違いない。「周りが思っている以上に、僕は必死です」。右手に宿った感覚を、ペナントレースで確信へと昇華させていく。
(小西亮 / Ryo Konishi)