いまだに根強い日本野球の「長時間練習」への信仰 12時間練習は本当に必要なのか?

より合理的で中身の濃い練習が必要な時代へ

 第3に「技術が低下する可能性がある」こと。少数の野手が長時間ノックを受ける「特守」では、野手は疲労がたまると楽な姿勢で打球を受けたり、ノッカーの動きを読んでボールの飛ぶ位置に先に移動しようとしたりする。正しい守備の姿勢をとることができなくなる。

 また打撃練習でも、素振りを長時間するうちに、打撃フォームを崩してしまうこともある。人間は、同じ体の動きを長時間連続で続けることはできない。適度なインターバルを取って練習しないと、技術は逆に低下してしまう可能性がある。

 第4に「その他の時間を奪ってしまう」こと。東海大仰星高校のラグビー部を3度の全国大会優勝に導いた湯浅大智監督は「ラグビー選手はどんなに勝っても、野球選手のようにそれだけで飯を食うことはできない。だからラグビーの練習だけでなく、勉強も、読書も、映画を見たり音楽を聴いたりする時間も大事だ」と言った。

 野球の長時間練習は、選手を野球漬けにする。勉強や趣味やプライベートの時間は、ほとんどなくなってしまう。野球選手もいつかは社会人になるが、そのときの準備が全くできなくなるのだ。また、練習を長時間強制することは、選手が独自のテーマをもって自主的に練習する時間を奪う可能性もある。

 長時間練習をする指導者は「肉体の限界まで追い込むような苦しい経験をすることで、精神力を鍛える」と言う。確かに満足感、達成感はあるが、具体的な成果、収穫はそれほど多くない。U-12侍ジャパンの仁志敏久監督は、2016年、アリゾナ・ダイヤモンドバックスのマイナーチームの練習に参加した。

 練習スケジュールは起床、朝食からアップ、ミーティングからポジション別の個別メニューまで細かく決められていたが、選手は9時半ころに練習を始め、11時45分には練習を終えてランチになっていた。仁志氏はメニューを見て大した練習ではないと思ったが、実際にこの練習をしてみると、短時間に次々と練習をこなしていくので、運動量も多く、大変ハードだったと感想を述べている。

「長時間練習」の否定は、ハードな練習の否定ではない。練習メニューを見直して、より合理的で中身の濃い練習に変えていくということなのだ。「長時間練習」への信仰は、そろそろ見直す時期に来ているといえよう。

(広尾晃 / Koh Hiroo)

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