緊急事態宣言でどうする? 甲子園V監督の指導法「一番のポイントは選手の自覚」

野球は究極の個人プレー、それをチームにするのが監督の仕事

 全体練習ができないことに悩むのではなく、それぞれが割り切って個人練習を極めること。夏を目前に控えたこの時期、チーム連携に時間が割けないことに不安も残りそうだが、そこには大藤監督なりの考えがある。「僕は野球は究極の個人プレー、その集合体だと思ってるんです。みんなで一つのことをやるのではなく、一つの目標に向かわせつつも、個々の能力や得意分野を伸ばしていくことが高校野球のチームプレー。実際、3拍子揃った選手なんかは滅多にいなくて、せいぜい2拍子がいいところ。2年半で短所を直すのは難しいので、あとは2拍子の組み合わせでチームを作る。これは監督の仕事ですから」。

 さらに「愛知は春の大会が中止になりましたが、今の高校野球でデータがないっていうのは大きい。極端に寒い年や、週末に雨が多い年なんかは練習試合が組めず、番狂わせが起きやすくなる。状況としては今年はそういう年。享栄は24年甲子園に出ていないので、選手には『こういう時こそ逆にチャンスだぞ』と言ってます」と状況を分析する。

 30年余りの指導者人生ですら類を見ない状況にも、冷静にチーム作りを進める大藤監督だが、夏の大会開催にも暗雲が立ち込めているのが現状だ。こんな時だからこそできる教育とは何か。難問にも明快な答えが返ってくる。

「言い方は悪いですけど、僕は野球なんて所詮ガキの毬(けまり)遊びだと思ってるんです。こんなこと言うと、野球を冒涜するのかって怒られそうですけどね。野球っていつかは辞めるじゃないですか。早ければ高校、プロまで行ったってせいぜい35歳で引退して、そこからコーチや解説で野球だけで食っていける人間が何人いるか。いずれ人として社会の中で生きていかなきゃいけない。それをどれだけ学べるかの手段に過ぎないんです。中京大中京のとき、教え子が4人続けて打者でプロに行った。全員高校通算50~60本打った、その50~60本の陰で打撃投手が何万球を投げたか。控えの子が何万回ボールを拾ったか。それがどれだけありがたいことか分からなかったら、プロに行く資格なんてないんですよ。だからこそ、今野球ができないこの時間が何よりも大切なんです」

 母校を離れた今も、ぶれず、戸惑わず。かつてのライバル校のグラウンドでも前例のない状況でも、指揮官の信念は変わらない。

(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)

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