劇的サヨナラ弾の鷹・柳田も「一生忘れることはない」 選手に無形の力を与えたファンの存在
通常の20分の1以下の観衆にも「少しでも歓声があるだけで全然違う」
■ソフトバンク 2-1 楽天(10日・PayPayドーム)
劇的なアーチが飛び交うこととなった7月10日の夜。日本の各地で行われたプロ野球6試合は、スタンドに戻ってきたファンを熱狂させるには十分な結末を用意していた。ナゴヤドーム、京セラドーム、そしてPayPayドーム。3つの球場でサヨナラ本塁打が飛び出す劇的な幕切れとなった。
1日で3本のサヨナラ本塁打が乱れ飛ぶのはプロ野球の歴史で3度目の出来事だった。2019年9月4日のDeNA・筒香(阪神戦)、ロッテ・田村(日本ハム戦)、ヤクルト・山田哲(広島戦)が放って以来、だ。ここまで無観客での試合を戦ってきた選手たちに、少ないながらも、ファンの声援が与えた力は大きかったと言えるだろう。
PayPayドームでの楽天戦で劇的弾を放ったのは柳田悠岐外野手だった。1-1で迎えた延長10回、先頭打者として打席に入ると、2ボール1ストライクからの4球目、楽天のシャギワが投じた高めのカットボールを捉えた。快音を残した打球は左中間スタンドへと飛び込むサヨナラ弾。ベンチから飛び出してくるチームメート、そして、スタンドのファンは総立ちとなった。
その柳田もこの日から戻ったファンの存在を実感していた。「少しでも歓声があるだけで全然違いました」。通常であれば4万人超が入るPayPayドームは、再開初戦のこの日の入場者数は1839人だけだった。それでも、試合前のシートノック、スタメン発表と事あるごとに選手には拍手が送られた。試合中も1球1球に拍手が起こったり、歓声が上がったり、ため息が起きたり……。満員時に比べれば、もちろん小さいが、それでもファンの興奮、緊張、不安などの感情がスタジアムには漂った。
柳田も言う。「守ってる時もボールが増えると拍手が起きたり、そういうのにピッチャーも力をもらっていると思う。ありがたいですよ」。ピンチになれば、選手を後押しする拍手が起こる。新型コロナウイルスの影響で無観客での試合を強いられてきたからこそ、より一層、ファンのありがたみを感じることにもなっただろう。わずかな声援でも選手には力に与える。
「嬉しいですよ、どんな時でもホームランは。でも生でファンの方に見ていただけるのは嬉しいです。多分、一生忘れることはないかな、と思います」。普段は多弁ではない柳田が「一生忘れることはない」と言ったサヨナラ弾。この一言に、ファンが与える“無形の力”の価値がこもっていたように感じた。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)