習志野まさかの5回コールド負け コロナ禍に泣いたエース左腕「自覚が足りなかった」

先発した習志野・山内翔太【写真:小西亮】
先発した習志野・山内翔太【写真:小西亮】

昨春、夏の甲子園を経験しているエース左腕山内が3回12安打9失点

 おなじみの「美爆音」は球場に響かない。聞こえてくるのは、ひっきりなしに相手打者から放たれる金属音ばかりだった。10日に全8地区の決勝が行われた高校野球の千葉大会。昨年春の選抜大会で準優勝した習志野は、2-12の大差で市立船橋に5回コールド負けを喫した。甲子園の舞台も経験したエース左腕・山内翔太投手は痛打を止められず、無表情で吹き出す汗をぬぐうしかなかった。

 立ち上がりから後手に回った。初回の先頭に二塁打を許すと、犠打と犠飛であっさり失点。「課題の立ち上がりに抑えることができませんでした。調子自体は悪くなかったですが、球が高めに浮いてしまった」。2回は先頭から3連打を含む7安打を浴びて6点を奪われた。相手打線の勢いを止めることはできず、3回を12安打9失点で降板。「すべて、自分の実力のなさです。チームには申し訳ない」。夏では8年ぶりとなるコールド負けの責任を背負った。

 新型コロナウイルス感染拡大を受けた自粛期間が明けた後、練習試合ではマウンドを重ねてきたが、やはり夏の舞台は異質だった。春季大会が中止になったことで、公式戦の緊張感からも遠ざかっていた。加えて、この日が今大会の初登板。重圧のマウンドでの感覚を取り戻す前に飲み込まれた。コロナ禍の影響がないといえば嘘になるが「言い訳になるし、条件はみんな一緒。僕が準備できていなかっただけで、エースとして自覚が足りませんでした」と涙は見せなかった。

 昨年春の選抜では1学年上のエース飯塚脩人投手とともに2枚看板を担い、準優勝に貢献。昨夏の甲子園でも、全2試合に先発した。新チームとなって挑んだ昨秋の県大会も優勝。実力でも、経験値でも、負けないはずだった。いったい、どこで歯車が狂ってしまったのか。自粛期間中も自宅などで自主トレに励んだと思っていたが、この大敗という結果の前には「自粛期間の行いが悪かったとしか言いようがない」とつい思ってしまう。

 コロナによって奪われた全国への道。用意された独自大会という舞台で、勝って終わることこそが3年間の集大成だと思ってやってきた。「去年は1学年上の先輩たちがいることで、気楽な部分がありました。やっぱり、自分たちの代で勝たなきゃ意味がないんだなと」。山内は最後まで気丈に語り、帰りのバスに乗り込んだ。終わりを告げる負けは、重く、つらい。いつもは美爆音にかき消されていたセミの声が、耳障りなほど聞こえた夏だった。

(小西亮 / Ryo Konishi)

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