“特別な夏”に巡ってきた幼馴染の初対決 習志野・角田と市船橋・高田の絆

2017年夏の千葉大会を観戦する中学時代の高田、度会(現横浜高)、角田(左から)【写真:本人提供】
2017年夏の千葉大会を観戦する中学時代の高田、度会(現横浜高)、角田(左から)【写真:本人提供】

高田が二塁打を放ち二塁ベース上に2人の姿が…

 千葉県の独自大会は地区ごとのトーナメントで行われることが決まった。今まで1度も対戦したことのなかった2人は同じ第2地区。それぞれが3回勝てば、対戦することができる。甲子園はなくなったが、胸が躍った。

 それぞれが勝ち上がり、直接対決が決まった試合前日、角田に高田からメッセージが届いた。「俺が二塁まで行ったら一緒に写真を撮ってもらえるかな」。くだらない、と思ったが、その想いが嬉しかった。「やっと試合ができるね。どちらかが勝って、負けるけど、俺たちはとにかく楽しもう」と返した。

 そうして迎えた8月10日。例年であれば、吹奏楽の音が響き、伝統校同士の戦いに観客が溢れるスタンドになるはずだった。昨年までとはまったく違い、選手の声、場内アナウンスが聞こえすぎるほどよく響き渡っていた。それでも、2人は同じグラウンドで野球ができることが嬉しかった。

 高田は第1打席で先制の犠飛を放ち、第2打席に立った。ショートにいる角田と目が合った。「二塁まで行きたい」。1球見送った2球目。高田が放った打球は左翼への二塁打となり、角田の居る二塁に到達した。言葉は交わさなかった。ただ、高田の胸には「やっと試合が出来た」という2年半の思いが溢れた。

 結果は5回コールド、12-2で高田の市船橋に軍配が上がった。角田は2打数無安打と持ち前の勝負強さを発揮できなかった。「内容が自分たちの思っていたようなものじゃなかったのが悔しいんですけど、市船のバッティングがまさっていたので、そこはしっかりと受け止めるしか無いです」。高田のいる市船橋を称えると、キャプテンとして泣かないようにしていた角田の目から、大粒の涙が溢れ出した。

 帰りのバスに向かっている時、泣きはらした角田の顔がいつもの笑顔に戻った。そこには、さっきまでグラウンドで戦っていた、幼なじみの高田の姿があった。近寄った2人は少し恥ずかしそうに肩を叩き合った。「あとは頼んだぞ! 優勝しろよ」。そう高田に言い残して角田は元気に手を振って球場を去っていった。

 夏の千葉県大会決勝トーナメントは15日から始まる。幼馴染同士の戦いを制した市船橋の高田は、背中を追い続けてきた幼なじみの涙の分まで最後の夏の活躍を誓う。

(小倉星羅 / Seira Ogura)

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