「卒業まで引退はないぞ」 来春閉校の江陵が“最後の夏”後も活動を継続するワケ
ソフトバンク古谷の母校・江陵は“最後の夏”後も活動継続、他校との練習試合も行っている
ソフトバンク・古谷優人投手の母校で来春閉校になる江陵(北海道中川郡幕別町)が、今夏の大会終了後も活動を続けている。部員は3年生20人。大会前と同様の練習をこなし、週末には他校と練習試合を行うこともある。その狙いとは?
最後の夏を終えた江陵ナインに“引退”の2文字はなかった。消防士を目指して公務員試験の勉強に励む2人を除く18人が授業後、グラウンドに集合する。自主練習ではなく、あくまで通常のチーム練習。気の抜けたプレーには厳しい言葉が飛ぶこともある。
夏の甲子園中止が決定した5月20日のミーティングで決めた約束だった。尾崎太郎主将は「この学校で、野球を通じて人としてあるべき姿を学んできました。これからも野球を通して成長したいと思っています」とその目的を説明する。
そうは言っても、最初は気持ちが乗らなかった。「最初で最後の甲子園出場」を合言葉に道内外から集まった20人は甲子園中止が決まると、目標を北北海道大会優勝に切り替えた。だが、十勝支部代表決定戦で白樺学園に0-9で7回コールド負け。翌日はグラウンドに集合したものの誰も練習せず、翌々日に練習を再開した時にはいかにも自主トレという気の抜けた雰囲気だった。尾崎主将は「負けて目標がなくなって、どこに進んでいいのか分からなかった。何のために野球をやっているのかという感じでした」と振り返る。
転機が訪れたのはその週末のこと。北北海道大会に出場する帯広農、北見緑陵、武修館と練習試合を行った。道大会出場校からすれば、支部大会で負けたチームはすでに新チームに移行しているため、練習試合をお願いしにくい。その点、3年生だけで練習を続けている江陵は格好の相手だった。
行った先々で思わぬ激励を受けた。武修館は「十勝江陵不滅」と書かれた手書きの横断幕とケーキを用意してくれていた。励まされるうちに尾崎主将は「自分たちは最後まで、最後の江陵野球部員であることに変わりない」ことに気付いたという。「これまで先輩たちが築いたものがあって、江陵が感謝されている」。その事実に報いるには、大会がなくても目の前のことを一生懸命やるだけだという境地に達した。