指導歴42年…イップスも「直し方が分かる」 “北の名将”が進化し続けられる訳

スリーラインを説明したもの(1は速球、2は外に逃げる球、3は落ちる球に対するバットの軌道を示す)【写真提供:佐々木啓司監督】
スリーラインを説明したもの(1は速球、2は外に逃げる球、3は落ちる球に対するバットの軌道を示す)【写真提供:佐々木啓司監督】

「ノックを打って子どもたちを成長させ、通じ合うものがある」

 近年は次男で野球部長の達也さんがノックを打つことが多いが、22歳の時から20年数年間はたった一人で毎日2時間半ノックを打ち続けてきた。腰、膝、肘、手首と体はボロボロ。「よく“ノックを打てなくなったら終わりだ”と言うけれど、それは感じるものがあるよ。ノックを打って子どもたちを成長させることができるし、通じ合うものがある」としみじみと言う。

 「内野は簡単なんだ。外野ノックでうまく選手を育てられたら大したもの。初速と終速の差がないように打たないと、1歩目を鍛えられないから。そんなノックはもう打てない」と寂しそうに笑うが、一昨年痛めた腰も癒え、来年には再びノックバットを握るつもりでいる。

 昔と同じノックは打てなくても、今は課題を的確にとらえる目とそれを修正する知恵がある。外野ノックで正面の打球を苦手にする選手にはアメリカンノックから始め、徐々に振り幅を狭めていく。イップスに悩む選手に対しては、肘をうまく出せるように横から投げさせるといった具合だ。「俺自身も高校時代にイップスを経験した。キャッチャーからセカンドには投げられるのに、ピッチャーに届かない時があった。だから直し方が分かるし、気持ちも分かる」と話す。

 イップスを抱える選手に低周波治療器で腕に刺激を与えたこともある。「いろんなものを試さないとダメ」。親身になって様々な方法にトライして、今がある。そんな指揮官を慕い、駒大岩見沢時代の教え子の子弟が入学するケースが多い。

 真摯に球児たちと向き合い、気がつけば指導歴は42年を数える。培った経験や知識は、春夏通じて13回の甲子園出場の実績が物語る。それでも、指導に唯一の正解はない。北の名将の進化は、まだまだ止まらない。

○佐々木啓司(ささき・けいじ)
 1956年2月7日生まれ。42年の指導歴を誇る大ベテラン。駒大を卒業後、1978年に母校の駒大岩見沢監督に就任して35年間で公式戦通算503勝を挙げた。2003年には全日本アマチュア野球連盟選手強化部AAA強化部会委員を務めた。14年にクラーク記念国際監督に就任し、創部3年目の16年夏に北北海道大会を制して、甲子園初出場。その後18年、19年と2年連続北北海道大会準優勝し、今夏の代替大会でも優勝と常勝軍団に成長させた。

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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