防御率2.77でも「投げ方が分かんない」 広島ドラ3大道が敗戦と引き換えに得た渇望

大学選手権で志願の続投も敗戦…引っ張った監督の思い

 ネットスローは下半身の動作を身につける「ロッキング」と呼ぶピッチングドリルで行った。後足(右投手の場合は右足)と前足(右投手の場合は左足)を肩幅の2倍ほどに開き、まずは前足に重心をかける。後足に重心を移す時にテークバックをとり、再び前足に重心移動する時に球をリリースする。「他のチームでロッキングをやっている選手がいますが、頭が捕手側に突っ込むことが多い。うちは頭を残させるんです」と正村監督。重心移動で骨盤を回転させる時、体の中心軸が地面に対して垂直であることを重視する。
 
「ロッキングって、うちの野球部でも完璧にできる人、少ないんですよ。(投げ終わりに前足の)左股関節にかかる力が上から下ではなく、逆に下から上。自分の中でガラッとフォームが変わった感じになるんです」と大道。股関節から地面に力を伝えていた感覚から、地面からの力を股関節に伝わる感覚が身についた。「地面から力をもらうため、まずは『軸を地面に埋め込むようにねじ込んでいけ』という表現をします。沈んで、上がる時、体の軸が残っていないと、真上に上がれないんです」と正村監督。

 6月10日、大道は東京ドームのマウンドに立った。ボールに力を伝えられる投球フォームになったことで「伸びがよくなった」という140キロ台の直球にチェンジアップを制球よく使い、三振の山を築いていった。打線も前半で3点を奪ってリード。正村監督は完封させるつもりでいた。ところが、前半に飛ばして体力が奪われ、中盤で球速が落ちてきた。変化を感じた正村監督はベンチで「代わるぞ」と伝えたが、大道は「いや、投げさせてください」と志願。「ちょっとなぁ…」と、指揮官が考えている間もなく、「キャッチャーに聞いてください」とたたみかけた。

 続投。「ランナーを出したら終わりな」。正村監督はそう伝えていたが、走者を背負っても代えなかった。8回の無死一、二塁をしのいだ大道は9回もマウンドへ。だが、内野安打と2四球で走者をためた。1死満塁。ベンチは動いた。降板。2番手で中道佑哉(ソフトバンク育成2位)を投入したが、流れを止められず、最後は走塁妨害もとられ、3-4のサヨナラで敗れた。

「なぜ、引っ張ったのか」。聞いたのは野暮だった。制球力に長けたサウスポーとして社会人野球まで経験し、投手という“生き物”の心情は分かっている。

「大道はリーグ戦後、変わってくれた。だから、ここで完封したら、もうひとつ、上にいくんじゃないかと期待していたんですけどね。そこが私の甘さであり、“ピッチャー”ってことなんですよ。投げたいに決まっているんだから、ピッチャーなんて、あそこまで行ったら。完封したいんだから。勝つ監督は『もういいよ』って代えるんでしょう」

モチベーションを手に入れ、3年秋のリーグ戦は2試合で完封

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