「こういう勝ち方をしたかった」 菊池雄星を初勝利へ導いた巧妙な配球術
頭脳的な投球に生かされたベンチからの観察眼「これまでの3試合で」
水が砂地に染み入るように短い言葉がすんなりと腑に落ちた――。「追い込み」型だった従来の配球に、菊池は「稼ぐ」、「まとめる」の意識を高め、挑んでいった。
根拠のある“”ハイリスクな配球”も試みた。それを支えたのが、セットポジションからの“間”だった。
3回2死一塁の場面。直近3試合で4安打の1番アルトゥーベと対峙。外角のスライダーで二ゴロに仕留めたが、菊池は“時間差”を巧みに使った。セットポジションから2球目の始動まで約8秒の静止。3球目を前にして約6秒のホールドから牽制を挟むと、最後に仕組んだのは、仕切り直したセットからの“間”。約3秒のクイックで始動した。3段階の巧妙な技で、菊池は打者に心的揺さぶりをかけ続けた。
この頭脳的な投球には、ベンチからの観察眼が生かされていた。
「これまでの3試合で、真っすぐを、“イチ、ニイーノ、サン”で振って結果を出していると感じたので、(ボールを)長持ちして、遅い球を投げればいい反応をしてくれるんじゃないかなって。コーチと話し合ったのではなく、あの時、そう感じてやりました」
タイミングを真っすぐに合わせたアルトゥーベは、大きく体勢を崩しバットを止めた。その初球の見逃し方も根拠にして、ウイニング・ショットから逆算したとも捉えられるスライダーの3球勝負は「同じ変化球を3球以上続ける」危険をはらむ配球だったが、大事な局面で、見事に答えを導き出した。
過去2年、走者を出してから崩れる投球が顕在化していただけに、観察力と洞察力を合わせた好打者との駆け引きは、今後に大きな意味を持たせるものになった。
「ボール自体はいい」と言い続けて来た菊池雄星が、メジャー46登板目で投球の幅を広げる新たな生面を開いたのは確かだった。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)