出場辞退で戸惑った昨夏… 自問した主将の責務、支えになった父・中山秀征氏の言葉

青山学院高・茂久田裕一監督【写真:川村虎大】
青山学院高・茂久田裕一監督【写真:川村虎大】

自粛明けも練習は2時間のみ、「目一杯練習させたい」と監督がとった行動

 出場辞退という選択が簡単に受け入れられなかったのは、選手だけではない。茂久田裕一監督だって同じだった。

「やり場のない理不尽というかね……。なんと声かけて良いのか分からなかった。ありきたりの言葉しか出てこなかったですよね」。自粛期間が明けて練習を再開できても、2時間に限られた。さらにマスクを着用する必要があったため、安全を考慮して息が上がる練習はできず。選手たちに十分な環境を用意できなかった。

 せめてもの思いで、自ら練習の準備と片付けを買って出た。誰よりも早くグラウンドに行き、ボールなどの道具を用意。さらに選手が帰った後、グラウンドにトンボをかけた。「2時間、目一杯練習させたいですから。これくらいしかできませんでしたけど」。そんな監督の思いを、中山は分かっていた。

 1年秋に主将に指名されてから誰よりも厳しい言葉を受け、コミュニケーションを重ねてきた。会社員の茂久田監督は休日しか練習を見ることができないだけに「平日は脩悟が監督にならなければいけない」との方針も理解していた。「俺の思い、考えを理解してもらわなければ困る」と何度も言われてきた日々。振り返れば苦しいことの方が多かったかもしれないが、ただチームのため“監督役”を模索した。

 思いは、しっかりナインに通じていた。たとえ2時間でも、低負荷での練習だとしても、野球ができる喜びを感じているのは、生き生きとした表情を見れば分かった。感情をぶつけるようになり、練習試合にも関わらず、ミスをして涙を流す選手もいた。

 ただ、すぐ結果には結びつかなかった。昨秋の都大会本選では、小山台に0-10でコールド負け。今春も初戦で目黒日大に1-14で同じくコールド負けを喫した。夏に向けて不安がないと言えば嘘になる。それでも主戦投手でもある中山の気持ちは揺るがない。「勝てる」。強がりではなく、試行錯誤しながら歩んできた1年間が背中を押してくれる。

「他の学校とは違って、対外試合が少ない中で、春のような経験をできたのはよかったと思います。ミスは必ず出ると思うので、ミスが出ても僕が抑えるという気持ちで臨むことができれば、結果は必ず出てくると思います」

 8日に幕を開けた東東京大会。青山学院高は13日に初戦を迎える。どこよりも早くこの夏を目指し、待ちに待った舞台がやってきた。堂々とグラウンドに立ち、あとは「野球の神様」を信じて戦うだけだ。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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