智弁和歌山を決勝に導いた信頼 中谷監督と左腕・高橋にあった“元阪神”の絆

先発した智弁和歌山・高橋令【写真:市川いずみ】
先発した智弁和歌山・高橋令【写真:市川いずみ】

準決勝の和歌山東戦に先発し、8回1失点と好投した高橋令

 この日の試合でベンチ入り20人全員が試合に出場した。「全員で戦う」を合言葉に臨んだ今大会。まさにそれを体現した試合だった。25日に行われた、全国高校野球選手権和歌山大会準決勝。智弁和歌山は147キロ左腕のエース・中西聖輝投手(3年)を登板させることなく、7-1で和歌山東に勝利。27日の市立和歌山との決勝戦に向けて理想的な形の勝利となった。

 試合後、あくまでエースの「温存ではない」と中谷仁監督は強調した。「夏は優勝しないと意味がない、全員で勝とうということ」と、この日の先発は背番号11の左腕・高橋令投手(3年)に任せた。先発としてマウンドに上がるのは昨夏の終わりに行われた和歌山県下高校野球新人戦以来2度目。「野球人生で1番緊張した」という準決勝の先発。大役のプレッシャーは大きかった。

 初回に2死から安打と四球、さらに暴投で一塁、三塁のピンチを招く。なんとか三振でしのぐも2回はランナーを二塁に背負った場面でこの試合2つ目の暴投。和歌山東に先制点を献上してしまう。しかしこの暴投が自らの緊張をほぐしてくれたという。

「暴投で1点取られて、開き直りました!」。序盤でよかったと笑う高橋はそこから調子をあげていく。「まっすぐと変化球のコントロールが良かった」と振り返るように、3回以降は二塁を踏ませない投球で8回を9奪三振。失点は2回に暴投で与えた1点のみで、9回は同じ3年生の伊藤大稀投手に「最後のイニング頑張ってくれ」とマウンドを託した。

 高橋の投球を指揮官は「期待通り」と絶賛した。背番号11への信頼は投手としてのスキルはもちろん、小学生の頃からよく知る関係が築き上げたものだ。高橋は2015年に阪神タイガースジュニアに選出され、当時コーチを務めていたのが中谷監督だった。「子供の頃から見ていて、大きな試合で力を出す。マウンドに上がると度胸の良さがありますね」と信じ、前日の練習終わりに準決勝の先発を告げた。

 高橋、伊藤のリレーで和歌山東を1点に抑えての決勝進出。「中西を使いたくなかった。次の決勝で思い切り投げてほしい」とエースの力投を願う左腕の声は弾んでいた。決勝戦の相手は昨秋、公式戦で3度敗戦した市立和歌山。決勝に導く大役を果たした背番号11は最後にこう言い残した。「みんなで、全員の力で勝ちたいです」。

(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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