故障リスクと背中合わせも「怖がったら悔いが残る」 ロッテ荻野の盗塁哲学

幽霊部員からプロ通算235盗塁の韋駄天に「ゆっくりやっていけばいい」

 中学時代の幽霊部員は、いまやロッテが誇るスピードスターに成長した。「野球って多分、そんなに急がなくても、年齢が上がっても上手くなれるスポーツ。中学や高校で試合にバリバリ出ていなくても、大学や社会人から出てくる人もいますから。ゆっくりやっていけばいいんじゃないかと思います」という言葉には、大きな実感がこもる。

 荻野と言えば盗塁。そんなイメージが強いが、意外にも盗塁に対するこだわりはないという。

「あんまりないですね(笑)。全員ができるわけではないとは思います。足の速さだったり、その時のシチュエーションだったり、ピッチャーにかかるプレッシャーだったり、盗塁が成功するための要素はある。アウトになれば試合の勝敗を左右しますし、すごくリスクは大きいし、体に掛かる負担も大きいです。そう考えると、盗塁は難しいことではありますよね」

 今季前半を終えるまで、通算235盗塁を積み重ねた。リスクを厭わず、一つ前の塁を果敢に目指すプレースタイルは、常に怪我と隣り合わせだ。故障箇所は膝、大腿部、肩、脇腹、指など多岐にわたる。

「怪我をしないように日々のケアをしっかり心掛けていますけど、怪我を怖がって自分の力を出せないのも悔いが残る。怪我をしないようにプレーするというよりは、個人的には精一杯のプレーをして怪我をしたらしょうがないと思っています。運もありますから」

 ロッテは今季、1974年以来となるリーグ優勝からの日本一を目指し、好位置につけている。戦国模様のパ・リーグを勝ち抜くためにも「1番・荻野」を欠くことはできない。井口監督も「いかに荻野に怪我をさせないか」を後半戦のカギに挙げるほど。指揮官から寄せられる厚い信頼を感じているからこそ、「1つ先の塁を狙いながらも、状況をしっかり見極めて、無理をしなくていいところは無理をしない。そういう割り切りもしていきたいと思います」と話す。

 球団新記録を作っても、優勝を巡る熾烈な争いが待っていても、後半戦に臨む姿勢はいつもと同じ。「しっかり自分の役割を果たしてチームに貢献できるよう頑張ります」。今年11月、ルーキーイヤー以来となる11年ぶり日本一をつかんだ時こそ、この笑顔のポーカーフェースが大きく表情を変える時なのかもしれない。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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