「やってくれるのではと…」劇的サヨナラ弾放った横浜の1年生 監督が期待したワケ
8回まで無得点、苦しいゲームをひと振りでひっくり返した
第103回全国高校野球選手権は11日、阪神甲子園球場で第2日を行い、3年ぶり19回目の出場となる横浜(神奈川)が広島新庄(広島)を3-2のサヨナラで下した。「1番・遊撃」で先発した緒方漣内野手(1年)が2点を追う9回2死一、三塁、左翼ポール際へ劇的なサヨナラ3ランを放った。
絶体絶命の状況を、1年生がひと振りでひっくり返した。9回2死、2点差。緒方が1ボールから内角直球を強振すると、打球は左翼へ高々と上がった。自身の「行ってくれ~」という叫びも届いたのかもしれない。左翼へ吹く風に乗りポール際のフェンスを超えた。「頭が真っ白になりました」。ベースを周りながら右手を突き上げたのも、生還してナインにもみくちゃにされたことも覚えていない。自身高校生活2本目、そして公式戦では初という記念弾が、最高の場面で飛び出した。
村田浩明監督は「最後は緒方がやってくれるのではという期待はありました」と、1年生に期待をかけていた苦しい胸中を明かす。神奈川県大会で猛威をふるった横浜の「7試合100点打線」は苦しんでいた。広島新庄の花田侑樹投手(3年)から西井拓大投手(3年)へのリレーを前に、8回まで無得点。ようやく9回、3番手の秋山恭平投手(3年)へ先頭から連打を浴びせ好機を作ったものの、2死となり緒方に打席が回ってきた。
そう信じるにはわけがあった。緒方はこの試合、初回の第一打席で中前打し切り込み隊長の役割を果たしたものの、3回には無死二塁からの送りバントを失敗。ただそこで下を向くことなく、前を向いて守っていたのを買っていた。「動じないで、しっかり切り替えのできる選手なんです」。チームの危機を救えるだけの“人間力”を感じ取っていた。
2020年に就任した指揮官は、この試合が甲子園初采配。高校時代は横浜の捕手として2003年の選抜準優勝、2004年夏の8強などの実績を誇る。「私も選手の時はここで9試合戦いましたけど、一瞬でおわるイメージというか、記憶がないんですね」。その中で地に足をつけ戦う1年生が頼もしかった。
緒方は横浜の「細かい野球が合っている」と考え入学を決めた。1年春から遊撃の定位置をつかみ、夏は1番打者へ。「甲子園で緊張はありました。初めての経験です」という初々しさとは裏腹に、自分から先輩へ声をかける積極性もある。
この大会で対戦したい投手には、ノースアジア大明桜(秋田)の最速157キロ右腕、風間球打投手の名を挙げた。「凄くいい投手なので、力を試してみたいです」身長166センチの小さな体が、少しずつ大きく見えていく。
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)