巨人原監督が短期決戦で見せた“勝負勘” 9年前にもCSファイナルで奇跡演じる

巨人・原辰徳監督【写真:荒川祐史】
巨人・原辰徳監督【写真:荒川祐史】

シーズン代打で37打数15安打、打率.405という驚異的な数字

 ベンチで1人、心の中では大慌てだった。どうしよう、どうしよう。ヘルメット取って、バットを取って……。でも、そんな姿は相手には見せられない。冷静にネクストバッターズサークルに出て、打席へ向かった。

「普通に何も考えられなかったです。だから、逆に打てたんだと思います。考えてたら打てません」

 石井氏は前年に西武を戦力外になるも、翌年、移籍した巨人では代打で37打数15安打、打率.405という驚異的な数字を残した。ハイアベレージの裏には、割り切りの思考があった。

「それまでは代打の経験がそこまで多くはなく、3打席、4打席ある中で結果を出せばいいと思っていたんです。ジャイアンツでレギュラーを取れないというのは頭の中でどこかありました。何ができるのかと考えた時に、もう代打で勝負するしかないと思っていました。その気持ちがやっぱり、そういう数字、結果を出したんじゃないかなと思います」

 このシーズン、原監督は石井氏をカウントの途中から代打で起用したケースがあった。石井氏にはそこから1球で勝負するという割り切り、思い切りがあるから起用できた。

「原監督の“マジック”、勝負師と呼ばれる由縁ですよね。その時はカウント2ボールノーストライクから代打でした。その時も……すみません、用意はしてませんでした(笑)。まさか『こんなところで代打?』って、なりました」

 結果は四球だったが、原監督は迷わずに球審に名前を告げていた。

「正直に言うと、そんな状況で送り込まれても、僕自身、何していいのかわからないですよね……。次の球を打ちに行っていいのかわからない。打ちに行って、凡打になったらどうなるんだろうとかそういうのもありました。でも、バッテリーは次にストライクを取りに来る。ベンチはストライクだったらその次の一球目を、自分だったら振りに行くと思ってくれたのではないかと思っています」

 石井氏は初球に強かった。2012年のCS第5戦も重圧の中で初球から振りに行っている。

「僕は代打なので。結局、ストライクは3つしかない。だから、初球から振っていかないといけないと思っていました。そういう気持ちを作っていかないといけなかったから、初球に強いと見られるようになったのかもしれませんね」

 野球を続けていくために、巨人で新しい自分を作り出した。割り切り、思い切りが首脳陣の信頼を勝ち取った。その姿勢を見せたプレーヤー、その姿勢や心境の変化を見逃さなかった監督という構図が、短期決戦などの勝負所で好結果として結びつくのではないだろうか。

○石井義人(いしい・よしひと)1978年7月12日生まれ、埼玉県出身。浦和学院(埼玉)では1年夏から甲子園に出場。1996年のドラフト4位で横浜(現DeNA)入り。2002年に西武へ移籍。2005年は規定打席に到達し、打率.312、リーグ4位の成績。2012年から巨人でプレーし、同年CS最終ステージでMVP。2014年に現役引退。引退後は2016年までルートインBCリーグ・武蔵の打撃コーチ、2017年から佐藤病院で選手兼監督。2019年は女子プロ野球の野手総合コーチとして活動。今年、学生野球資格回復した。

(Full-Count編集部)

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