鷹・甲斐拓也が教えてくれた東京五輪の舞台裏 捕手という生き物の思慮深さと献身

投手の心の不安を取り除くため、コミュニケーションは欠かさない【写真:荒川祐史】
投手の心の不安を取り除くため、コミュニケーションは欠かさない【写真:荒川祐史】

ソフトバンクの投手が甲斐に感謝するのはその心配りの証

 甲斐の捕手としてのこうした考えの根底にあるのは、いかにして投手に不安なくマウンドに上がって、自信を持ってボールを投げてもらうか、にある。投手がパフォーマンスを100%発揮するには、不安なく投げてもらうことが絶対に必要だ。

「伝えていればピッチャーはある程度腹をくくれるんです。でも伝えていなかったら『初球行くの不安だな』『ちょっとボールにしようかなと』となる。そこの違いって絶対にあるんです。それに初球からインコースに行くって伝えれば、ブルペンの投球内容も変わってくるかもしれない」。当然、相手を抑えるため、でもある。ただ、それと同時に、投手の心の不安を取り除くために、捕手は抜かりのない準備をする。

 所属するソフトバンクでもその気配り、心配りは変わらない。コロナ禍では難しくなったが、遠征先などでも特に外国人投手の部屋を訪れ、綿密なコミュニケーションを取る。どんなタイプの投手か、どんな球種選択を好むのか、次の相手はどんな打線か、そして捕手としてどんな攻め方を考えているか。事前にコミュニケーションを図ることで、外国人投手も不安なく投げられるようになる。昨季在籍したニック・マルティネス、や今季復帰したコリン・レイが、頻繁に甲斐の名前を挙げるのも、その心配りの証だ。

 捕手は結果が全て。抑えれば投手が称えられ、打たれれば捕手が責められる。なぜか投手のストライクが入らないことさえも、捕手の責任を問う声があがることもある。そういった声に向かい合い、ただ実直に日々準備に明け暮れる。故・野村克也氏は自身のことを「月見草」と喩えた。ひっそりと咲くその姿は、まさに捕手の生き様そのものに思える。

○著者プロフィール
福谷佑介(ふくたに・ゆうすけ)
1982年8月、東京都生まれ。大阪や愛知で少年時代を過ごし、早大から報知新聞社入社。サッカー担当、野球担当を経て独立し、フリーに。月刊ホークスやベースボールマガジン、ホークスファンクラブ会報誌などにも寄稿。現在はFull-Countで執筆活動を行う。ソフトバンク・甲斐拓也捕手のスローイングを初めて「甲斐キャノン」と表現した。

【Twitter】https://twitter.com/yusukefukutani

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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