イチローが口にした「アメリカンジョーク」 わずかな“間”に見えた孤独の意味【マイ・メジャー・ノート】第3回

チームメートが“異能の打者”に近づくための手段…いったい誰が陥れたのか

 イチローはやられた。暗記していたのは、尾籠(びろう)なオチをつけるロッカールーム・ジョークだった。高温多湿なカンザスの8月を喩える響きにまんまと引っかかったのだ。ここで、“慣用表現もどき”を修正してみる。

“August in Kansas City is hotter than two rats in a f***ing wool sock.”
(8月のカンザスシティーは2匹の鼠が入り込んだウールの靴下よりもっと暑苦しい)

 行為そのものを表す「動詞のFワード」と「名詞を強調するFワード」のトリック。その見え透いた手口が笑えるのだが、“icebreaker”に通じている。聞き手をくつろがせ、話に引きつけるためのユーモアやジョークなどが相当する。チームメイトは、日本から来た異能の打者との間に介在していた心のよそよそしさを、ジョークという「砕氷船=icebreaker」を使って、冷たい氷を割り前へ進んで行こうとしていたのだ。

 夏の夜話を再生した。見どころはイチローの“間”だった――。

 コスタスに切り出すまでの11秒には、照れ笑いから一転、凛とした表情に変る“もう一つの間”があった。その空白――つわもの揃いの異環境に溶け込みつつあるという自信の表れだったのか、それとも、未知の困難を意識した鎮静の力を湛えたものだったのか――にイチローが感じてきた孤独の投影をみた気がする。

 それにしても……イチローを陥れたのは、誰だ。

○著者プロフィール
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。シアトル在住。【マイ・メジャー・ノート】はファクトを曇りなく自由闊達につづる。観察と考察の断片が織りなす、木崎英夫の大リーグコラム。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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