東京五輪金メダルに導いた手書きの“マル秘ノート” 鷹・甲斐拓也が明かす中身と工夫
周到で綿密な準備は「色々な経験をさせてもらっていたので出来た」
まずは相手の選手の名前と背番号、顔、打ち方などを徹底的に頭に叩き込む。その上で、映像などを見ながら、打者としての特徴を踏まえて対策を練っていく。頭に叩き込んだ情報とデータを一致させるために考えたのが、このお手製のノート。毎日のように空き時間を使って、映像を見ながらこのノートを1枚、1枚、書き記していった。
甲斐が手にしていたノートはバインダータイプのもので、特徴を記したページの順番を入れ替えることができるようになっていた。バインダータイプを選んだのにも、大きな理由がある。「選手1人につき、1ページを使いました。名前と背番号を書いて、ミーティングで聞いたり、自分で映像を見て感じた特徴、ホットゾーンとかを書きました。一度、試合で対戦したら、そこで感じたことっていうのを付け加えていくんですけどね、もう1回対戦する可能性もあるんで。そして、試合前にオーダー表が来たら、打順の順番にページを入れ替えるんです」。
相手の打順に応じてページを並び替えることで、オーダー順に選手の特徴を再確認できるようになる。「打順の順番で並べておくと、すごく分かりやすい。1番はこのページ、2番はこのページ、と。例えば中継ぎで出てくる投手に対しても、その打順の流れをパッと見て、自分の感じたことも書いてあるし、それまでの打席はもちろん覚えているので、それを伝える。1イニングずつ、ベンチに戻ったらそのノートを見て確認していました」。それぞれの打者を迎えると、書いたノートが頭に浮かぶ。危険なコースはどこか。どこに投げればリスクが低いか。「ノートに書いていなかったら、多分ワケ分からなくなっていたと思います」と言うほど、重要な意味があった。
国際舞台での分析、対策の立て方、そしてバインダータイプのノートを作るというアイデアは一朝一夕で思いついたことではない。「これまでに色々な経験をさせてもらっていたので出来た部分もあります。初めてジャパンに入りました、だったら多分出来ていないと思います。今まで色々な経験をさせてもらって、すごく感じることができていましたから」。2017年に初めて侍ジャパンに選ばれ、日米野球やプレミア12など様々な国際大会に出場。その経験の積み重ねがあっての、この東京五輪でのアイデアだった。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)