知的障害のある球児と慶應高野球部員が深める絆 合同練習会で与え合った刺激

慶應高野球部員に教わりながら夢プロジェクトのメンバーも一緒にグラウンド整備【写真:編集部】
慶應高野球部員に教わりながら夢プロジェクトのメンバーも一緒にグラウンド整備【写真:編集部】

学生コーチが声を揃える慶應高野球部員への刺激

 この日のメインは、2チームに分かれて臨んだ試合形式での練習だ。投手を務めるのは、元ロッテの荻野忠寛さん。それぞれのチームで、攻撃時には夢プロジェクトメンバーが打席に立ち、守備時にはポジションに就く夢プロジェクトメンバーの横で練習パートナーの野球部員がサポート。基本的に慶應高野球部のメンバーはサポート役に徹し、自分でボールを投げたり打ったりするわけではないが、それでもヒットが出たり、得点が入ったりすると、まるで自分のことのように大喜びする。夢プロジェクトメンバーが野球ができる楽しみや喜びを全身で表現する様子は言わずもがな。その光景は、子どもたちが何の制約もなく校庭や公園で野球に興じた原風景を思わせるものだった。

 そんな様子を三塁側ベンチから見守っていたのが、学生コーチを務める木本啓志くん(慶大3年)と大谷航毅くん(慶大2年)だ。3月の練習会にも参加した木本くんは「実際に見るまで、知的障害のある人たちがここまで野球ができるなんて思いませんでした。何も知らずに練習を見たら、障害があるなんて気付かないと思います」と目を丸くする。初参加となった大谷くんは、普段は1人で練習している子がほとんどだと聞くと「1人で練習するなんてすごい。技術のレベルが高い子もいるし、何より思いきり楽しそうに野球をしているのがいいですよね」と微笑む。

 夢プロジェクトのメンバーたちが秘める可能性に驚かされるのと同時に、2人の学生コーチが声を揃えるのが「今まで知らなかった部員の新たな一面が見られた」という言葉。集合の輪から逆方向へ歩き出す夢プロジェクトのメンバーをそっと追いかけ、軽く肩に手を添えながら元の位置に戻るように促す野球部員の姿に「普段はどちらかというと目立たないタイプ。こんなことができるんだ、と驚かされています。後輩だから、まだ子どもだと勝手に思っていたけど、意外とみんなしっかりしているのかも」と大谷くん。「僕たちにも大きな気付きや学びがある。高校生にとってもいい経験になっていると思います」と木本くんも続ける。

 印象的だったのが、練習会を締めくくる円陣を作った時のことだ。今夏の「第104回全国高校野球選手権愛知大会」に連合チームの一員として参加する、愛知県立豊川特別支援学校3年の林龍之介くんが挨拶。この日、連合チームの練習がなかったため、夢プロジェクトの合同練習会に参加した林くんが「なんとかヒットを打って塁に出て、チームの勝利に貢献したいと思います。応援宜しくお願いします!」と健闘を誓うと、そこに集まる全員が「頑張れ!」とエール。夢プロジェクトのメンバーも、慶應高野球部員も、まるで我がことのように目を輝かせていた。

 林くんが所属する連合チームは7月9日、小牧市民球場で一宮西高と初戦を迎える。一方の慶應高は同13日にサーティーフォー相模原球場でサレジオ学院と対戦。3度の交流で絆を深め、野球の楽しさを共有する球児たちが、それぞれの夏を迎える。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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