練習試合19Kでスカウト注目も… 神奈川のドラフト候補がコールド負けに笑顔のワケ

バッテリーを組んだ澤田と庄司幹太【写真:大利実】
バッテリーを組んだ澤田と庄司幹太【写真:大利実】

エースを支えた2年生捕手の存在、もう一人の“カンタ”

 およそ1年半、澤田とバッテリーを組んできたのが、1学年下の庄司幹太だ。名前が同じ「カンタ」、さらにバッテリーということもあり、良き相棒として切磋琢磨してきた。

 澤田から見た、後輩・庄司はどんな存在だったのか。

「1年夏から一緒にバッテリーを組んでいて、一番信頼している子ですし、バッティングに関しても自分の後ろを打ってくれるので心強い。あいつが成長したところも知っています。2年生で一番期待しているので、この負けを糧にして、来年頑張ってほしいです」

 同じ取材場所にいた庄司は、この話を泣きながら涙をこぼしていた。

「もう、嬉しいです。澤さんがそんなことを思ってくれていたんだって」

 慶応戦では、ピンチのたびにマウンドに足を運んだ。

「はじめは配球の話をしていたんですけど、最後のほうは『楽しみましょう!』と声をかけていました。澤さんが怪我をしたときは、『もう投げられねぇかもしれない』と言っていたこともあったので、バッテリーを組んで、夏の大会を戦うことができて良かったです」

 庄司が大師を選んだのは、中学3年時に行われた部活動体験会のときに、小山内監督にかけられた言葉が影響している。

「もともと、公立に行って私立を倒したいと思っていました。自宅から通えるところで、強かったのが大師。練習会のときに、小山内先生に『うちに140キロを投げる大エースがいるんだけど、キャッチャーがいない。一緒にバッテリーを組んで、上を目指さないか』と誘ってもらいました」

 庄司は、川崎市立野川中時代に助っ人で相撲の大会に出場し、県大会で5位入賞を果たした実績を持っている。高校に進んでからは、澤田と相撲で遊ぶこともあるそうだが、「澤さんはせこいことをしてくるので、自分が負けます。あとは、プロレス技をかけてきたり、かわいがってもらっています」と、高校生らしいエピソードを教えてくれた。

 澤田ら3年生9人が抜けた新チームは9人での始動となる。キャプテンには、庄司が就く。試合当日、ひとりでも欠場すれば不戦敗になってしまうが、単独チームでの出場に意欲を見せる。

「澤田のような選手が活躍してくれることで、『大師でも、高いレベルの野球ができるんだ』と思ってもらえると嬉しいですね。今はギリギリ9人ですが、新入部員を増やして、何とかまた野球部を立ち直らせていきたいです」(小山内監督)

 澤田は、プロ志望届の提出を視野に入れながら、体のメンテナンスとトレーニング、そして後輩の指導に時間を注ぐ予定だ。

「2年生が少ないので心配なところはありますけど、秋の大会に向けて、いろいろと教えていきたいと思っています。今まで少し甘やかしすぎたというか、優しくしすぎたところがあるので、心を鬼にしていきたいです」

 ドラフト候補の存在によって、注目を集めた大師の夏。きっと、中学生にも大きな影響を与えたはずだ。先輩が築いた伝統を、今度は後輩が受け継いでいく。

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。

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