甲子園中止、コロナ辞退、監督交代… 東海大相模の3年生が流した涙の重み

東海大相模・原俊介監督【写真:大利実】
東海大相模・原俊介監督【写真:大利実】

心を決めて訪れた監督室、原監督の答えは

「原先生はどういう野球を目指しているのか、教えてください」

 決して、不満があったわけではない。ただ、お互いに遠慮していた面があり、言いたいことがなかなか言えない状況が続いていた。

「もう夏しかないので、自分たちの気持ちを言わないで後悔することだけはしたくない。3年生で話し合って、聞きに行くことにしました」(松山主将)

 原監督からは、門馬監督時代から大事にする「『アグレッシブ・ベースボール』の考えは変わらない」と伝えられた。そのうえで、現チームの課題として挙がったのが、状況に応じた守備、相手にビックイニングを作らせないための声掛けや間の取り方。春の桐蔭学園戦では守りが乱れ、4回に一挙6点を失った場面があった。

 この夏、守りの中心にいたのがショートの深谷謙志郎だった。1球1球、大きな声を張り上げ、ピッチャーの背中を押すとともに、周りの守備陣にも声をかけ続ける。

 準々決勝の慶応義塾戦、三塁側のカメラマン席から試合を見ていると、あることに気付いた。サードの笹田、セカンドの及川将吾が要所で深谷に目線を送っていたのだ。

「あれは自分たちで決めたんですけど、『ここ、打たれそうだな』とか嫌な流れを感じたときには、ショートにいる自分のことを見るようにしています。一度、目を合わせてから、声をかけあう。それをやるようになってから、嫌な流れを食い止められるようになってきました」(深谷)

 準決勝の横浜創学館戦では、4回1死満塁のピンチで中間守備を敷き、4-6-3のダブルプレー。セカンドの及川の好判断が光った。

「事前に、『強い打球が来たら、セカンドゲッツーを取る』と深谷さんと確認していたので、迷いなくプレーができました」(及川)

 決勝は1点が重かった。9回の守りでは、サヨナラ負けにつながるミスも出た。試合後、深谷は「庄司、ごめん。最後、本当にごめん……」と泣きながら謝っていた。

 それでも、誰も責める者などいない。大会中、原監督は「粘り強く、我慢強く守れるようになっている」と、守備陣の踏ん張りを評価していた。

 3年間の歩みを間近で見てきた長谷川先生は、彼らの成長をこう語ってくれた。

「春に負けてから、選手ひとりひとりがチームのことをよく考えて、行動するようになってくれました。昨夏はコロナで出場辞退、一昨年は甲子園が中止になったので、東海大相模にとっては”3年分の夏”でした。今の選手たちに、あまり背負わせすぎてはいけないと思っていましたが、先輩たちの想いを感じながら、本当によく頑張ってくれたと思います」

 敗戦の翌日、3年生はそれぞれの地元に帰省。しばし、心と体を休めてから、また次のステージに向かう。

「ここからまた、スタートです。少しでも長く野球をやってもらいたい。『アグレッシブ・ベースボール』を胸に、大学、社会人、プロで活躍してほしいと願っています」

「あの夏の負けがあったから成長できた」と言える日がきっと訪れるはず。悔し涙を力に換えて、それぞれの目標に突き進む。

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

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