「我々の時代よりも難しい」王貞治氏が語る、ヤクルト村上宗隆の55本の“凄さと価値”

「本人にとっては不思議じゃない。不思議じゃないからもっと打てる」

 また、王会長はホームランバッターならではの感覚についても明かした。野村克也氏の持つ52本塁打を抜いて新記録を樹立した当時を思い返し「とにかく、打てる時ってのは打てちゃうんですよ。だぶん村上君もそうだと思いますよ。皆さんから『すごいな』とか言われるけど、本人にしてみれば特別なことじゃないんですよ。打てちゃうから打てているだけで、別にどうしようとかこうしようとか、特別なことをやってる訳ではないと思います。本人にとっては不思議じゃないんですよ。不思議じゃないからもっともっと打てる訳でね。自分が感激したり興奮しているようじゃ打てなくなっちゃうからね」。村上にも同様の感覚があるのではないか、と見る。

 王会長は55本塁打を放った1964年に、119個の四球を選んだ。村上もここまで105四球。相手の警戒の中で本塁打を量産する秘訣はどこにあるのか。「無理して打つことはないんですよ、難しい球を。絶対にいわゆる失投というか、ホームランになるようなボールが必ず来るわけだから。それを逃さないで打つ、というだけでいい。四球は止めようがない。だから、それは我慢だと思う。彼はそれが十分できているんじゃないかな」。甘い球を逃さずに打つ。それに尽きるという。

 時代は変わり、王会長の現役時代と現在では野球の形も変わった。データ分析が進み、投手分業制が当たり前になった。だからこそ、王会長は「この頃はデータ、データで研究してくる。と、同時に今は分業制だから1試合で同じピッチャーに4回当たるなんてことはない。そういう中でホームランを量産するっていうのは我々の時代よりも難しい。そういう中でそれだけ打ってるっていうことはね、やっぱり彼の技術がいかに今の時代でも図抜けているかということ」と、この55本の価値を高く評価する。

 今季、村上には本塁打記録の更新とともに、令和初の3冠王にも期待がかかる。1973年、1974年と2度、3冠王に輝いている王会長は「1番難しいのは打率ですよ」という。その理由について「なぜかというと全選手が相手ですから。ホームランというのはある一部の人が相手。ハナからレースに入っていない人がいる。打率っていうのはみんながみんな敵になってスタートして、まあ途中から絞られますけどね。3つを狙う人と1つを狙ってくる人っていうのは、1つを狙う人はそれなりの執念を持ってくるからね」とし、最大の難関は打率になると見る。

 プロ5年目にして、世界のホームラン王のシーズン記録に肩を並べた村上。王会長は「これからもっともっと50本、60本と、そういうようなホームランを何回も打てるような結果を出してくれると、僕は期待しています」と、さらなる本塁打、飛躍に期待を寄せていた。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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