控え選手の“グチ”が生んだ名遊撃手 巧みな人心掌握に野村監督も感嘆「どうやって?」|球界群像 立石充男#7

ソフトバンク時代の鳥越裕介【写真:共同通信社】ソフトバンク時代の鳥越裕介【写真:共同通信社】

指導者として日台韓の8球団渡り歩いた立石充男氏

 選手育成でヤクルト・野村克也監督に驚かれ、中日・星野仙一監督には感謝された。コーチ業のスペシャリスト・立石充男氏にはそんな“逸話”がある。南海の内野手としての現役生活を終え、指導者になってからはダイエー、中日、台湾・和信、近鉄、阪神、台湾・統一、韓国・ハンファ、楽天、そして再び中日と渡り歩いた。教えた選手は数え切れないが、明大からプロ入りした、内野手のひとりは特に印象深いという。

 立石氏は熱血コーチとしても有名だ。特に若かりし頃、中日コーチ時代には、あの闘将・星野仙一監督にも言い返した“実績”があるし、ダイエーコーチ時代には田淵幸一監督と言い合ったこともある。「納得いかなかったら、わかりましたぁ! って言って、ドアを思いっきりバッターンって。その部分がへこんでいました。すかさずダイエーのマネジャーが何月何日って書いてましたね。まぁ笑い話ですけど」とサラリと話したが、周囲は当然、笑ってられなかったはずだ。

 それでも年上からは一目置かれ、年下からは慕われた。指導者として、多くの選手と接し、それぞれのタイプを見極めて教え方を工夫。自身が思いつく最善の方法で取り組んだ。1993年のドラフト2位で中日に入団した鳥越裕介内野手に関しては、その年のオフにダイエーを戦力外となり、中日にテスト入団した市原圭内野手とのセット指導が功を奏したという。

 当時、立石氏は中日2軍守備コーチ。「鳥越は守備力がよくなかった。最初は1軍だったけど、1軍のコーチからキャンプが終わる時に電話がかかってきて、鳥越は一からやらないと難しいというような話になったんです」。そこで鳥越と市原を呼び出し「明日から今まで教わったことを白紙にして、一からやれるか。ただし半端じゃないぞ、練習するぞ」と伝えた。2人は「お願いします」。そこから始まった。実際、すさまじい数のノックを打ったという。

 鳥越は背が高い(189センチ)ショート。どうしたらこの選手がよくなるかを考えた末、島谷金二2軍監督に「サードで使ってください」と頼んだ。だが、エラーは減らなかった。ある時、ハーフフライを落とした。「すみません」という鳥越を見て立石氏は市原を呼んで「一言いってあげろ」と指示した。実は事前に打ち合わせをしていた。「鳥越に『それだけ試合で使ってもらっていいじゃないですか、僕はベンチにいて、そんなすごい経験はできませんよ』って言ってくれ」と……。

中日時代にともに汗を流した鳥越裕介氏、立石充男氏、市原圭氏(左から)【写真:本人提供】中日時代にともに汗を流した鳥越裕介氏、立石充男氏、市原圭氏(左から)【写真:本人提供】

星野監督から「鳥越を育ててくれてありがとう」

 あまり試合に出られず、たまに守りだけみたいな感じだった市原はその通り鳥越に話した。ずっと一緒に練習してきた仲間からの言葉。すると……。「鳥越はもう使わなくていいだろう」という島谷2軍監督に立石氏は「明日からショートで使ってください。もうエラーしませんから」と断言した。ここまでのサードの経験が生きると確信していた。「鳥越には両手でいくなって言いました。彼の場合、手が長いんで片手でも追いつくんでね」。

 そこから鳥越の守備力は見違えるほどになった。1軍にも上がった。神宮でその姿を見た野村監督は立石氏に「どうやって教えた」と電話してきた。「選手が選手を育てましたって答えました」という。1996年、中日に帰ってきた星野仙一監督は明大の後輩にもなる鳥越を使ってくれた。1997年は遊撃手の守備率.997の日本記録を達成。それはいまだ破られていない。立石氏は中日を退団する時、星野監督に「鳥越を育ててくれてありがとう」と言われた。

 その後、鳥越はトレード移籍先のダイエー・ソフトバンクでも活躍。現役引退後は指導者としてソフトバンク2軍監督、ロッテ1軍ヘッドコーチなどで実績も残した。「あの頃はよう頑張ってくれました」。猛烈なノックの嵐を繰り広げた当時を思い出しながらしみじみと話す立石氏は現在、関メディベースボール学院の野手総合コーチを務めている。そんな中、気がかりな選手がいる。2019年から3年間、指導した中日・根尾昂のことだ。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

球界群像〜立石充男編〜

敵も味方も仰天…100メートル先の“百発百中” 星野仙一監督も一目置いた「神業」|球界群像 立石充男#9投手転向も「客寄せパンダじゃアカン」 根尾昂から突然の電話…幻の“二刀流”進言|球界群像 立石充男#8阪神を救ったかもしれない“幻のカブレラ入団” 甲子園で漏れた野村監督のため息|球界群像 立石充男#6怒りに震えた指揮官「どういう神経してるんや」 ベンチの扇風機破壊招いた“口ごたえ”|球界群像 立石充男#5サッチーは「すっごい、べっぴんさん」 失言連発だった18歳、忘れられない“強烈初対面”|球界群像 立石充男#4567発の大打者にまさかの禁断ボール 激怒覚悟も…18歳が成功した“売名行為”|球界群像 立石充男#32度ダマすのは無理…敵ベンチから通報「持ってるぞ!」 隠し球失敗の“その後”|球界群像 立石充男#2汚い、ずるいと批判も…「珍プレー大賞」で時の人に 審判に“事前通告”、元南海・立石充男の衝撃奇襲|球界群像 立石充男#1

RECOMMEND

CATEGORY