元阪神守護神は「選手を見る目の失敗例」 予想できなかった覚醒…鷹の編成が認めた“負け”|球界群像 藤田学#9

ソフトバンクを経て阪神でクローザーとして活躍したロベルト・スアレス【写真:荒川祐史】ソフトバンクを経て阪神でクローザーとして活躍したロベルト・スアレス【写真:荒川祐史】

ロベルト・スアレスを推さなかった理由とは

 ロベルト・スアレス投手は2020、2021年シーズンに阪神の絶対的守護神として君臨した。2016~2019年まではソフトバンクに在籍していたが、評価は決して高くなかった。元南海投手でソフトバンクの編成担当を長く務めた藤田学氏もスアレスに関しては獲得した当初から厳しい視線を送り「『どうですか』と聞かれると『私はあまり薦められません』と答えていた」という。「自分の選手を見る目の失敗例です」と話した。

 藤田氏は2009年から2018年までソフトバンクの編成部門で力を発揮した。選手を見る目に定評があり、特に専門の投手チェックには長年の経験の積み重ねによる独自の理論を持っている。ソフトバンクの助っ人投手として活躍したリック・バンデンハーク投手の獲得を進言した“実績”もある。しかし“裏目”に出たことも。それがスアレスだ。

「ピッチングを見た時に『これはちょっと(ボールが)見やすいな』と思ったんです。球速はありましたけど、私はスピードよりもまず投げ方を見ますからね。(打者との)タイミングのズレが少なかったので、これは厳しいなと……。でも、間違いでしたね。阪神に行ってあんなに活躍したんですから。メジャーでも頑張ってますしね」と藤田氏は“負け”を認めた。

 その上で、こうも話した。「若い時の私はこういう間違いを認められなかったんです。今、それが言えるようになったのは、編成の仕事をして、わからないことを知ったかぶりせずに、どういうことですかと聞けるようになったのが良かったと思います。わからないままでは仕事になりませんしね。他球団の人と話す機会が増えて選手を見る上での知識も増えましたし、いろんな意味で編成をやったことは財産なんですよ」。

 新人王に輝いた現役時代、日本一もNPBワースト記録も経験したコーチ時代、選手を見る目が養われた編成時代……。どの時代も藤田氏にとって思い出深いことばかりだ。「コーチになりたての頃は雨が降っていたら、選手と一緒にぬれなきゃいけないと思っていたなぁ、若かったなぁ、とかね」。

ソフトバンクで編成担当を務めた藤田学氏【写真:山口真司】ソフトバンクで編成担当を務めた藤田学氏【写真:山口真司】

藤浪はメジャーで成功すると断言「細かいことを気にせずに」

 野球に関する“引き出し”がいくつもできた喜び、自覚もある。「何かを変えることによってガラリと変わる選手もいる。それは息子(藤田卓史さん)に教えてもらいました。高校は背番号20、大学は3年まで大差の試合に1イニング投げただけだったのが、投げ方を上から横に変えたら、球速も上がり、グンとよくなったんです。それ以来、選手に対して『ちょっと変われば』という見方ができるようになりましたね」。卓史さんはその後、社会人の強豪・東芝に進み、2010年の都市対抗で優勝に貢献。大会MVPに相当する橋戸賞を受賞した。

 藤田氏は2019年に台湾プロ野球の中信兄弟で2軍ヘッド兼投手コーチを務めた後、日本に戻った。現在は“充電中”だが、まだまだ野球界に貢献したい気持ちでいる。「プロだけでなく、少年野球やアマチュア野球もね。プロ野球選手になりたい人、社会人野球に進みたい人、指導者になりたい人、野球を楽しみたい人。いろんなタイプがあると思いますけど、それにあったことを伝えていきたい。野球は楽しくやらないと伸びない。そんなお手伝いができればと思っています」。

 プロ野球中継を見れば、必ず投手をチェックするという。「あっ、この投手は今日はいいなとか、ちょっと厳しいなとかね。自分の見る目が正しいかは、結果ですぐわかるしね」と笑う。「藤浪(晋太郎)はアメリカが合うと思います。あまり細かいことを気にせずに、もともとあったありのままの姿でやればいい。私の見方ですけどね。こう言い切って、どんな結果がでるか、頑張ってほしいし、楽しみです」。根っからの野球人。いつでも野球とつながっている。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

球界群像〜藤田学編〜

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