戦力外から甦らせた“無双魔球” 千賀の「お化け」上回る…バット当たらぬ破壊力
投球の9割近くがストレートとフォーク、スライダーを含め3球種で組み立て
昨季、ソフトバンクのリリーフ陣の中でひときわ輝きを放った藤井皓哉投手。一度は戦力外通告を受けてNPBを離れたが、独立リーグを経て育成契約で2022年からソフトバンク入り。開幕直前に支配下への返り咲きを果たすと、55登板で22ホールド、防御率1.12の成績を残した。充実のシーズンを過ごした右腕の昨季の投球を掘り下げていく。
ストレートとフォークが投球割合の9割近くを占めており、スライダーを含めた3球種でピッチングを組み立てた。いずれのボールも被打率は優秀で、リーグ平均と比較しても高数値。1イニング勝負のリリーフゆえに投じられた球種こそ少ないが、どれもハイレベルだった。
中でも最大の武器となっているのが、魔球とも評されるフォークだ。スライドしながら鋭く落ちる独特な軌道のボールは、バットに当てることすら困難で、多くの打者を苦しめた。被打率.072はパ・リーグ投手の中でナンバーワンを記録。フォークを代名詞にソフトバンクから米移籍した千賀滉大投手やオリックス・平野佳寿投手を抑えてのトップであり、一躍球界屈指のフォークボーラーに躍り出た。
次に打者がスイングした時に空振りを奪った割合を見ていくと、フォークは53.4%をマーク。2スイングに1回は空を切らせており、数字の上でも抜群の落差を証明する。ほかの球種もリーグ平均を大きく上回っているが、これは打者がフォークを意識するがゆえに相乗効果として空振りを誘発していた可能性はある。とはいえ、打者が思い描いた球筋をしのぐボールを藤井が投じていたことに疑いはなく、捉えるのが困難な投手だった。
大活躍のシーズンを経て迎える今季は先発転向を見据えているが、これに向けての課題もあった。昨季は1打席あたりの投球数が4.52とリーグ平均と比べて多く、先発投手として活躍するための大きな障壁となり得る。フォークピッチャーの宿命ともいえる点だが、空振りを奪える一方で、見極められてしまえばボールになることも多く、どうしても球数は増加してしまう。先発として長いイニングを投げ抜きゲームをつくるためには、カウント球や勝負球のフォークを活かすためのボールが今後必要になってくるだろう。
オフの自主トレーニングでは「先発をやる上で必要」と今季は投じていなかったカーブの習得に励むなど、さらなる飛躍に向けて抜かりはない。圧倒的なフォークを投じる姿から、千賀を重ねる人も多いだろうが、飽くなき向上心もよく似ている。7年連続で2桁勝利を挙げたエースのように、今季は苦労人右腕が投手陣の柱としてソフトバンクを引っ張ってくれるはずだ。
(「パ・リーグ インサイト」データスタジアム編集部)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)