侍の“哲学者”が「ダメな癖」をやめない理由 投手ならでは「フリーズ」の瞬間

23日にブルペン入りした侍ジャパン・今永昇太【写真:荒川祐史】
23日にブルペン入りした侍ジャパン・今永昇太【写真:荒川祐史】

「僕は、投球フォームを連続写真みたいにイメージするんです」

 カチッと音が鳴ったかのように“フリーズ”する。野球日本代表「侍ジャパン」に選出されたDeNA・今永昇太投手の投げ終わりの話だ。1度振り下ろした左腕をあげた状態で停止。秒数としては1秒~2秒ほどだろうが、他の投手よりも長く固まるようにも思える。そのわずかな時間に、何を考えているのだろうか。

「僕は、自分のピッチングフォームを連続写真みたいにイメージするんです」。ストレート、スライダー、チェンジアップ――。様々な球種を、正確に操るために投手に求められるのは“再現性”。相手の投球に合わせて対応しなければならない打者と違い、同じ踏み込み、腕の振り、リリースで投げ込めば、同じコースに同じ変化の球が行くはずだ。

 今永は再現性を高めるために、自らの投球を“コマ送り”するような感覚を持っているという。足を上げてから腕を振り終えるまで、細かく分けて自らの脳内に記録する。そして“フリーズ”するのは、その終着点だからだ。

 今永はそこで打者に向かったボールを見ると同時に、フォームの形を見て、投球を振り返る。「いい時と(終着点が)同じだったら、この感覚を忘れないようにと。逆に違う形になっていたら『どこで(フォームが)ずれたのか』を確認するようにしています」。フリーズは、コマ送りを巻き戻す時間だ。

 一方で長いフリーズは、誤解を生む可能性もある。「自分の投球や、審判のジャッジに納得していないと捉えられてしまうときもあるので。ダメな癖でもあるので、やりすぎないようにしています」。ただ、いい球が行ったときは自分自身で「カチッ」とハマる瞬間があるという。

 この癖以外に、あえて“ダメなフォーム”で体の動きを確認することもある。多くはないが、右腕から体全体にかけてのしなり(最大外旋位)の軌道を意識するために、肘が下がってでも、キャッチボールで山なりのボールを投じる。“投げる哲学者”と呼ばれる左腕は、一つ一つの動作、行動に意味があった。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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