邪魔した“甲子園V投手”のプライド「何で俺が」 元プロが頭下げてお茶を売った日
鹿児島実業で選抜V、元横浜の下窪陽介さんは祖父が創業した製茶業の営業担当
鹿児島実業のエースとして1996年の選抜高校野球大会で優勝を飾った下窪陽介さんは、大学、社会人を経て2006年大学生・社会人ドラフト5巡目で横浜(現DeNA)に入団。2010年限りで退団、引退した。サラリーマン生活を経て、2015年から故郷の鹿児島県南九州市頴娃(えい)町に戻り、祖父・勲さんが創業、父・和幸さんが1972年に設立した「下窪勲製茶」で働いている。
野球とはかけ離れた製茶業の営業担当として、デパート側と交渉して催事場や物産展で出店、販売する。全国を年間の半分以上となる30週間かけて飛び回り、知覧茶などの自社製品をアピールしている。「うちは年間を通してお茶に携わる時間が本当に多い。それでおいしいお茶が作れないわけがないって思っているので、製品には自信を持っているし、こっちも頑張って売らないといけないなと思っています」。
家業のため、幼少の頃から親しみはあったが、いざ自分がその職に就いてみると、慣れない営業活動に戸惑った。「甲子園優勝投手」「元プロ野球選手」のプライドが仕事の妨げになることもあったという。「最初は抵抗があって『何で俺が』とか『そっちからこいよ』と思ったり……。まずはプライドを捨てることから始まりました。デパートに入らないことには仕事にならないし、勝負できません。そうしたら頭を下げてでも仕事を取るしかない。しつこいと思われたりもするけど、一生懸命やっていれば誠意は伝わります」。
まずは自社の製品を知るところから始まり、品種によって茶葉の量やお湯の温度が変わるお茶の淹れ方も研究。三越や伊勢丹など老舗百貨店にも片っ端から電話して出店を依頼した。今では「デパート側から『催事に出店してください』と言われることも増えた」という。