「このままじゃクビ」 移籍をチャンスに…身長167cmの小兵が頼った“怖かった”先輩

日本ハム・山本拓実【写真:羽鳥慶太】
日本ハム・山本拓実【写真:羽鳥慶太】

中日から日本ハムに移籍、さっそく1軍でも投げる山本拓実

 エンゼルスの大谷翔平投手や、パドレスのダルビッシュ有投手の例を出すまでもなく、プロ野球チームは大男の集団だ。取材のため選手に近づく機会があると、縦にも、横にも規格外のサイズに圧倒される。だからこそ、知恵を絞って大男に対抗する小兵選手には、親近感がわく。その1人が、交流戦後に中日から日本ハムに移籍した山本拓実投手だ。

 身長167センチ。ただ「自分の良さはストレートの強さだと思います」と言い切るように、鍛え上げられた体から飛び出す直球は時速150キロを超える。今季、中日では1軍14試合で防御率5.54という成績にとどまっていた。ただ2軍では10試合で同1.64。「ファームにいた時も140後半から150くらいは出ていましたし、練習だったりの感覚は良かった。力みが取れればもっと良くなると思います」。出番を渇望していた。

 トレードを通告された山本拓に「めっちゃチャンスだぞ」と声をかけた人物がいる。同じ身長167センチの体で、通算523試合に登板してきた谷元圭介投手だ。

 山本拓は2021年、1軍でわずか9試合登板、防御率6.43という成績に終わった。2軍でも打ちこまれ「このままじゃクビになる」とまで考えた時に、頭に浮かんだのは「自分と一番近い」選手の知恵と経験を借りることだった。

谷元圭介は「怖かったです……」恐る恐るの申し出から急接近

 勇気を振り絞って、谷元にオフの自主トレ参加を申し出た。2人は実に15歳離れている。さらに谷元は丸刈りになると“ド迫力”の風貌。職人気質で口数も多くない。「最初は、怖かったです……。それまであんまりしゃべったこともなくて」と山本拓も苦笑いするほどだ。ただ一緒に動いていると、その思考とテクニックの虜となっていった。

「2年間、自主トレを一緒にさせていただいて、マウンド上の振る舞いや考え方から、すごく尊敬しているというか、自分の目指しているところだなと改めて思いました」。気がつけば、マウンドでの振る舞いまでどんどん似ていった。

 特に、新型コロナによる各種規制が緩和されたこの春の自主トレでは、食事や時にはお酒を酌み交わしながら、色々なヒントを聞いたのだという。

「谷元さんのすごいところは、何を聞いても『普通に投げているだけ』と言うんです」

 どういうことか。「イニング途中のすごいピンチで行っても、抑えて帰ってくるんです。『何考えてるんですか? この球失投したら終わりとか思わないんですか?』と聞いたら『普通に投げてるだけ』って」。意味を咀嚼すると「いい感覚があって、それに戻していくだけ」なのだ。

深すぎる教え…思うような投球ができない時「何か邪念がある」

 教えは深かった。「調子がいい時って、何も考えないじゃないですか。さらに『悪い時は何か邪念があって、(打者に)当てちゃうかも……とかあると、投げミスが起こる』と言われたんです」。確かに思い当たる節があった。ミスをしたから修正しようではなく、常に普通であることが、山本拓の原点にもなった。「マウンドで立ち返ることもありますよ。普通に投げれば、抑えられるんだよなって」。姿から似てくるのも、当然だった。

 ところで、2人はともに公称で身長167センチ。実際にはどちらの方が高いのだろうか。

「谷元さんのほうが高い……。ことにしておきます。先輩なので。実際には髪型で全然変わってしまうくらいの僅差です(笑)」

 大先輩に気を遣う山本拓には、理想の姿がある。先発、リリーフといった起用の中身にこだわるのではなく、常に求められたところで結果を出すことだ。「どっちかしかできませんという投手にはなりたくない。『先発の枠が余ってる』『7回どうしよう』『9回守護神いない』となったときに『山本に任せよう』と言ってもらえるのが信頼の証。そういう投手になりたいと思います」。小兵投手に受け継がれる思考で、どんな結果を出してくれるのか。大きな選手との対決が、楽しみになってくる。

〇著者プロフィール
羽鳥慶太(はとり・けいた)神奈川で生まれ、愛知、埼玉などで熱心にプロ野球を見て育つ。立大卒業後、書籍編集者を経て2001年、道新スポーツに入社。プロ野球日本ハムを長年担当したのをはじめ、WBCなどの国際大会、アマチュア野球、平昌冬季五輪なども取材する。2021年よりFull-Count編集部所属。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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