佐々木麟太郎の“一塁守備”に見えた熱い思い ノーアーチも進化…身につけた制御法
花巻東の佐々木麟太郎、最後の夏がいよいよ始まった
今夏の第105回全国高校野球選手権から、岩手大会のメイン球場となる「きたぎんボールパーク」の芝と土を、花巻東の佐々木麟太郎内野手(3年)は噛みしめているかのようだった。
13日に行われた盛岡市立との初戦(2回戦)では、3回の第2打席に高めのストレートをとらえてセンター前ヒット。今夏の初安打である。ヒットはその1本にとどまったが、第3打席に選んだ四球に、麟太郎の成長と「夏にかける思い」を感じた。
1番廣内駿汰外野手(3年)、2番熊谷陸内野手(3年)の連打で、1死一、三塁とチャンスが広がった場面だ。花巻東の5点リードという状況を考えれば、「魅せたい」という思いに駆られて、多少なりとも強引なバッティングになっても不思議ではない。だが、打席での麟太郎は我慢強かった。ボール球をしっかりと見極め、4球での四球をもぎ取ったのだ。大会直前の麟太郎は言っていた。
「今年になって、打席で状況を把握しながら、自分自身の気持ちをコントロールすることが、よりできるようになった」
初戦の重圧もあっただろう。周りからは、注目スラッガーへの期待の目を向けられる。それでも、麟太郎は冷静だった。勝利を手にする最善の方法を求め、“チームバッティング”に徹した。
ファーストの守備でも、姿勢は変わらない。たとえ走者がいない場面でも、ピンチを迎えればなおさらに、麟太郎はマウンドに立つピッチャーに声をかけ、周りの野手の動きに気を配る。そんな姿に、花巻東の佐々木洋監督はこう言う。
「キャプテンの千葉柚樹の裏で一生懸命に声を出してくれているなあ、と。チームに貢献しようとする姿を見せてくれていると思います」
ファーストミットの色に込めた思い「明るくないといけない人間」
そして、麟太郎は常々言うのだ。
「グラウンドでもベンチでも、いかなる状況でも周りに声をかける。闘志を出して、情熱を燃やして、チームを引っ張っていくことが大事ですし、それが1年生の頃から経験を積ませていただいた自分の使命だと思っています」
ちなみに、使用する鮮やかなオレンジ色のファーストミットには、麟太郎の思いが少しだけ反映されている。
「自分としては、明るくないといけない人間だと思うので、声や情熱を出していきたい。そういう意味でも、グラブの色は……」
6回には、盛岡市立の3番・吉田廉内野手(3年)が放った一、二塁間へのヒット性の打球を飛び込んで好捕。自ら一塁ベースを踏んで、先頭打者の出塁を許さなかった。
「あんな守備、初めてみました」
佐々木監督は微笑みながら好守を振り返るのだが、そんなワンプレーにも麟太郎の夏への思いを感じた。
責任感、そして「勝ちたい」という強い思い――。たとえ、多くの人々が期待してしまう特大のホームランを打てなくてもいい。勝利につながる打席を増やし、チームを鼓舞するプレーを見せ続ける。この夏、麟太郎の思いは一つだ。
(佐々木亨 / Toru Sasaki)