部員のミスも「俺が怒られる」 史上初の快挙の影で…主将が戦った理不尽な“呼び出し”

沖縄尚学時代の比嘉寿光氏(先頭)【写真:本人提供】
沖縄尚学時代の比嘉寿光氏(先頭)【写真:本人提供】

沖縄県勢初の選抜Vの中心となった現広島編成部の比嘉寿光氏

 広島で編成部編成課長を務める比嘉寿光氏は、1999年の選抜で沖縄尚学が県勢初の甲子園制覇を成し遂げた時のキャプテンで4番打者。しかし、高校時代はそこにたどりつくまでにも、いろんなことがあった。1学年上には大きな壁的な存在の剛腕もいた。「松坂世代」の1人で150キロを超えるストレートが当時、大きな話題になった沖縄水産・新垣渚投手(のちダイエー・ソフトバンク、ヤクルト)だ。

 比嘉氏は高校進学の際に「大学まで行って体育の先生になりたいという夢を持ちつつ、なおかつ甲子園も」と希望していた。長嶺中では軟式野球部の捕手でキャプテン。沖縄県大会を制覇して九州大会にも出場し、「高校は4校くらいから話があった」という。その中で沖縄尚学に決めたのは「(同校監督の)金城孝夫先生から『文武両道で目指してみないか』と言われたことと、(同級生になる)周りのメンバーを見て、もしかしたら、と思った」からだった。

「島ですから、何かしら(他の学校の選手のことも)知っているんですよ。『あそこにはいい選手がいるけど、高校は沖縄水産らしいよ』といった情報も入ってきた。沖縄尚学は、中学でキャプテンをやっていた選手など、ちょっと面白いなってメンバーに声をかけていた。このメンバーが行くんだったら、僕も行きますって感じでした」。あえて沖縄水産ではなく沖縄尚学を選び、その仲間と切磋琢磨し、3年春には全国制覇を成し遂げたのだ。

 比嘉氏自身、最初から順調だったわけではない。「1年(1997年)夏のチームではまったくメンバーにも入らないくらいだった。最初は(中学同様)キャッチャーでしたが、夏までに駄目だって、烙印を押されました。硬式に変わったところで、あまりキャッチングとかが思わしくなかったのかもしれないですけど……」。そして、内野手になった1年秋の県大会、沖縄尚学の前に立ちはだかったのが、新垣投手を擁する沖縄水産。決勝で0-4で敗れた。

 打倒沖縄水産が大きな目標になった中、1998年、高校2年の春、比嘉氏にとっては忘れられない出来事があった。沖縄尚学は春の沖縄県大会に優勝。春の選抜に出場した沖縄水産とのチャレンジマッチに臨んだ。その試合でのことだ。「渚さんから満塁ホームランを打ったんです。150キロを超える真っ直ぐを打ち返したわけではないですよ。抜けたフォークボールが真ん中にきて……。たまたまです。まぐれですよ」。

 照れ笑いを浮かべながら比嘉氏は話したが、試合にも勝利した。沖縄からは、その2校で出場した春季九州大会で沖縄尚学はベスト8、一方の沖縄水産は優勝とまた差をつけられたが、たとえチャレンジマッチでも、そんな強豪に勝ったことは自信になった。夏の県大会に向かって、弾みがつく白星のはずだった。

現在は球団の編成部編成課長を務める元広島・比嘉寿光氏【写真:山口真司】
現在は球団の編成部編成課長を務める元広島・比嘉寿光氏【写真:山口真司】

部員から「すごい支えられた」ものの困った“居眠り”

 だが「そう甘くはなかったですね」。まさかの結果が待っていた。夏は沖縄水産との決戦どころか、初戦の2回戦で名護に2-5で敗れた。結局、その年の夏も沖縄水産が甲子園切符をつかんだ。1学年上の新垣投手がいる間に、その壁を完全にブチ破ることはできなかった。

 そんな悔しさを糧にして、沖縄尚学は1998年秋の県大会で優勝した。決勝はライバル・沖縄水産に2-0で勝った。そして九州大会でベスト4入りし、伝説の1999年春の選抜へとつながっていくわけだ。

 比嘉氏はキャプテンを務めたが「3年間、クラスがほとんど変わらない体育コースで、金城先生に1年の時から『お前が(学年の)代表でとりまとめろ』みたいに言われていて、その流れでなったんです」という。さらにこう続けた。「僕がまとめたっていう印象はないですよ。だいたいのメンバーが中学時代にキャプテンだったから、キャプテンの気持ちを分かってくれた。ありがたかったし、すごい支えられたなぁって思いますね」。

 ただし、グラウンド外で大変なことはあったという。「例えば部員の誰かが授業中に居眠りとかしたら『キャプテンが悪い』って、僕が先生に呼び出しを食らって怒られるんです。だから、必死で起こしたのを覚えていますよ。それでも起きないやつなんかには『おい、いいかげんにしろよ、俺が怒られるんだよ』ってね」。それもまた高校時代の“激闘”の証し? 新垣投手との対決も含めて思い出は山ほどある。それらを振り返りながら比嘉氏は笑顔が絶えなかった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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