藤浪晋太郎にかけた惜別の言葉 ア軍投手コーチが「今のままで大丈夫」に込めた親心

オリオールズ・藤浪晋太郎(写真はアスレチックス時代)【写真:Getty Images】
オリオールズ・藤浪晋太郎(写真はアスレチックス時代)【写真:Getty Images】

中継ぎ転向後の投球が評価され、オリオールズへトレード移籍

 7月19日(日本時間20日)、レッドソックスに2連勝したアスレチックスのクラブハウスは明るい雰囲気で満たされていた。流行りの音楽が鳴り響き、シャワーで汗を流した選手は気分良さげに鼻歌を歌いながら帰り支度をする。だが、そこに藤浪晋太郎投手の姿はなかった。

 しばらくして別部屋から姿を現した藤浪は、少し戸惑った表情を浮かべながら近くにいたチームメートに声を掛け、ハグを交わした。いつもと同じ帰りの挨拶かと思いきや、チームメートもまた驚きを隠せない表情を浮かべる。なんだか様子がおかしい。その後も藤浪はクラブハウスにいたチームメートやスタッフに次々と挨拶をし、ハグを交わしていく。他でもない、トレードによる別れの挨拶だった。

 アスレチックスと契約したのは今年1月。阪神からポスティングされ、念願のメジャー移籍を果たした。阪神ではここ数年、制球難に苦しむも、オープン戦は快調な滑り出し。環境の変化が奏功したかに見えたが、メジャー初先発となった4月1日(同2日)エンゼルス戦では2回1/3を投げて8失点を喫した。

 その後も100マイル(約160キロ)を超える速球を唸らせる一方、制球難が再び頭をもたげる。4月末から中継ぎへと配置転換。スコット・エマーソン投手コーチと状況の改善に取り組みながら、短いイニングで持ち味を生かすことになった。

 5月は中継ぎでも不安定な登板が目立ったが、6月になると一変。制球が落ち着きを見せると同時に、失点も減った。6月18日(同19日)フィリーズ戦で出した1四球を最後に、7月18日(同19日)レッドソックス戦まで11試合連続無四球を記録。この間に計4失点を記録しているが、防御率は10.65から8.57まで下がり、ファストボールは最速102マイル(約164キロ)に達している。

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アスレチックスのスコット・エマーソン投手コーチ(右)【写真:佐藤直子】
アスレチックスのスコット・エマーソン投手コーチ(右)【写真:佐藤直子】

エマーソン投手コーチが考えるシーズン序盤と今の違いとは

 この2か月ほどで藤浪の何が変わったのか。ブルペンで投球練習する際も近くで見守り続けた投手コーチは「自信」だと話す。

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「私は自信の差だと思う。やっと自分の能力に自信が持てるようになったようだ。開幕当初は舞台が変わり、自分にメジャーでやっていける実力があるのか疑問を抱いていた。だから、どこで投げても同じ野球だと伝えたんだ。日本でもメジャーでもミスは付きもの。彼が心置きなく自分らしさを発揮できるようにしたくてね」

 突如として大きく狂うコントロールは、藤浪が「完璧主義者」である裏返しではないかとも言う。「いい球を投げようと力みすぎるとボールが動いて、思わぬ方向へ行ってしまうのだろう」。投手コーチ曰く、投げ終えた後に体がホームに正対していればボールが暴れることは少ないが、クロスファイヤーになるとボールはカットしてしまう。この違いを生む力みの差は、元をたどれば狙い通りに完璧な球を投げようと意識しすぎることにあるようだ。

 となると、改善のポイントは投球動作やフォームのメカニクスより、むしろ精神的なものにあったのだろうか。投手コーチは「ニワトリと卵」を引き合いに出し、こう説明した。

「どちらの側面もあるけれど、どちらが先かというのはニワトリと卵のようなもの。状態が良くない時は、まずメカニクスに問題がないか探るが、結局のところ、最良の解決策は自分の心を理解すること。だって、体をコントロールするのは心だから。それがフジの取り組んできたこと。自分を信じ、アウトを取れるようになると、また自信が増す。その繰り返しだ」

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アスレチックスのスコット・エマーソン投手コーチ(中)【写真:佐藤直子】
アスレチックスのスコット・エマーソン投手コーチ(中)【写真:佐藤直子】

投手コーチが太鼓判を押す「スペシャルな才能」

 藤浪には「スペシャルな才能がある」と投手コーチは断言する。それが100マイルを超える速球だ。「誰もが簡単に手に入れられるものじゃない」という宝物に加え、「投球の精度を上げるために、毎日本当によく練習をしている」と努力を惜しまない。自ら進んでブルペンに向かい、感触を確かめる姿からは、何とかチームの役に立ちたいという思いが溢れる。

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 そんな姿を見てきたからこそ、投手コーチは「努力はすればするだけの成果を得られる。最近調子がいいのは当然の結果だ」と自分のことのように目を細めるのだろう。そして、こう言葉を続けた。

「オオタニは今や史上屈指の好選手となった。同じ日本から来た選手として、彼に負けない選手でいたいと思うのは当然。大きな期待に応えて自分もできるという姿を見せたくもなるが、同じである必要はない。フジはフジのやり方でそれを証明することができる」

 トレードが言い渡された日、藤浪と別れのハグを交わした投手コーチは、右腕の目を真っ直ぐ見つめながら言った。「今のまま続けていけば大丈夫」。新天地・オリオールズのマウンドでも自分の才能を信じることを忘れず、自分らしい投球を続けること。それこそが、わずかな期間ではあったが親身に寄り添ってくれた投手コーチへの感謝に繋がるのかもしれない。

□エマーソン投手コーチのインタビュー動画はこちら
https://abema.tv/video/episode/239-205_s70_p110

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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