広島が破竹の10連勝 球場がどよめいた打順…新井監督が信じた“つなぐ4番”の真髄
広島の止まらぬ勢い、元広島監督・緒方孝市氏が強さを解説
広島が強い。2019年以来4年ぶりの10連勝を飾り、勢いに乗っている。12日の巨人戦(マツダスタジアム)から白星街道を走り、5連勝で前半戦を終了。後半戦も22日の中日戦(同)から5連勝。キーマンの1人は、その中日戦からプロ初の4番に座っている上本崇司内野手だ。新しい4番のスタイルが作戦の幅を広げている。
頼りの西川龍馬外野手が怪我で離脱し、12日に登録抹消。4番が“不在”となった。その後、マット・デビッドソン内野手や松山竜平外野手、菊池涼介内野手が4番に入ったが、22日からはしぶとい打撃が売りの上本が任された。
22日の本拠地でのスタメン発表時には、どよめきも起こったという。この起用にインターネット配信サービス「カープ県」で解説していた広島元監督の緒方孝市氏は、「思い切った新井(貴浩)監督の打順の決め方。攻撃のバリエーションが広がった。(大型連勝は)采配の部分も大きい」と、新井監督の手腕を高く評価した。
4番打者が長距離砲である必要はない。4番を任せられる強打者はチーム内にはいる。デビッドソンや、パンチ力や将来性を考えれば末包昇大外野手もその1人だが、新井監督はどの打順でもこなせる“いぶし銀”の上本を抜擢し、打線の流れを重視した。
上本がチャンスメークあり、犠打もありと、つなぎの4番に徹していることで、波が作れている。5番以降を務めることの多い坂倉将吾捕手、デビットソン、末包らが、持ち前の打撃を発揮。得点を生んでいる。
上本は「劣勢でも大きな声を出したりしてくれる」
緒方氏が監督を務めて3連覇を果たした時のチームも、それぞれの選手が自分の役割を考え、力を発揮していた。その時期の“強さ”と重なる部分がある。
緒方氏は8連勝目となった25日のヤクルト戦(マツダスタジアム)で、上本が放った2本の安打に着目。1本目は初回2死一塁。0-2から右前安打で好機を演出。2本目は2点を追う3回1死一、二塁。カウント2-2から、1点差に迫る左前適時打。このタイムリーから反撃が始まり、最終的には逆転勝利を遂げた。
結果ももちろんだが、上本の打席内容は見事だった。緒方氏は「ともに2ストライクから。相手投手にダメージを与える一打だった」と持ち味のしぶとさで投手を攻略したことに目を細めた。このような打撃をされれば、チャンスで回ってきても相手バッテリーは嫌がる。走者がいない場面でもチャンスメークをされるため、勢いを与えてしまう。相手ベンチからすると大きなスイングをしてくるパワーヒッターより、怖い存在だ。
緒方氏は上本について「ベンチにいる時は劣勢でも大きな声を出したり、雨で試合が中止になったときはグラウンドでヘッドスライディングをするパフォーマンスで、ファンを楽しませたこともあった」と振り返りながら、昨オフに話をしたときのエピソードを紹介。1軍でレギュラーとして出ていた昨季を経て「『自信になりました。来年(2023年)に繋げたい』と言っていた。継続している姿、成長した姿が見れてうれしい」と笑顔を見せた。
新井監督の起用法は選手たちに戦略の意図が伝わる
もしも、経験の少ない若手や外国人選手に代理の4番を任せていたら……気負ってしまい、本来の調子を崩してしまうかもしれない。そこまで新井監督は見ていると緒方氏は分析する。上本は自分を見失わず、淡々と自分の仕事を遂行し、チームの勝利に貢献している。新井監督が拍手で出迎えるシーンが何度もあった。他の選手も生かし、打線を活性化させる思い通りの働きだったことがうかがえる。
今のカープの強さは、粗削りな部分はあるものの、随所に隙のない野球ができているところにある。それが4番・上本に象徴されている。緒方氏は好調の1つの要因として上本の存在を挙げたが、「新井監督の采配勝ちです」と全体を見渡している。「“こういう選手起用をしていく”という監督から発信が伝わってくる」と、プレーする選手、指示を出すコーチと戦略が共有できていることが大きいという。
他にも緒方氏は、中村奨成捕手の「1番・右翼」での先発起用の背景や、ヤクルトに勝ち越す意味の大きさなどもファンに解説。優勝経験のある監督だからこそ、見える今後の展開を見通していた。