予選から6試合連続完投の“鉄腕” 「恥ずかしくて帰りたかった」覚醒の転機

愛工大名電戦に先発した徳島商・森煌誠【写真:共同通信社】
愛工大名電戦に先発した徳島商・森煌誠【写真:共同通信社】

徳島商のエース・森は5安打1失点10奪三振で完投勝利、県予選から一人でマウンドを守る

 第105回全国高校野球選手権記念大会は7日、大会2日目の第4試合で徳島商が2-1で愛工大名電(愛知)を破り、12年ぶりの夏勝利を挙げた。U-18日本代表候補で、エースの森煌誠(もり・こうだい)投手(3年)が9回5安打1失点、10奪三振の快投。県大会から6試合連続完投の“鉄腕”は「マウンドは絶対譲りたくない」と、エースのプライドを口にする。

 甲子園のマウンドは最後まで譲らない。9回2死走者なし、愛工大名電の5番・加藤に投じた初球のストレートはこの日、最速の147キロをマーク。最後は得意のスプリットで左飛に仕留め、雄叫びをあげた。初回こそ先取点を許したが、その後は危なげない投球で今大会初の完投勝利をマークした。「思った以上に直球が走っていなかったので、変化球を交えて打ち取れた」と、笑顔を見せた。

 身長183センチの長身から繰り出される直球は、最速149キロを誇る。カーブとスプリットの2球種で前回8強の愛工大名電打線を手玉に取った。キレのいい直球、落差の大きいスプリットも魅力だが、目を見張るのは無類のスタミナだ。

 徳島大会の初戦から全5試合を完投すると、初の甲子園でも最後まで球威は落ちず、涼しい顔で9イニングを投げ抜いた。これで夏は6試合連続完投。昨今の野球界では球数制限、投手分業制が主流となっているが「エースとしてマウンドは絶対譲りたくない思いはある。疲れは全然ない」とキッパリ。力む癖を修正し、要所ではあえて力を抜く“脱力”を取り入れ打者と対峙している。

 転機となったのは、4月に行われたU-18日本代表候補選手の強化合宿だった。参加した右腕は「恥ずかしくて帰りたかった」と振り返る。全国で実績、実力ある選手が揃うなかで「緊張して力を出せなかった」とレベルの差を痛感。ブルペン、実戦でも納得いく球を投げられなかったが「合宿以降、力を抜いて投げたら良い球がいくと気付いた」。仙台育英(宮城)の高橋煌稀投手からは「間の使い方」などを吸収し、さらなる成長に繋げた。

 大黒柱の投球に、森影浩章監督は「思っていた以上に根気強く投げてくれた。初回に1点は取られたが95点ぐらい」と納得の表情。次戦は智弁学園(奈良)が相手になるが「森でとことんまでいく」と、早くも先発投手に指名するほど絶大な信頼を置いている。

 次戦に向け背番号「1」は、「ストレート投げる時に体が横ぶりになっていたので。そこを修正して次は安定したフォームで投げられるようにしたい」と、課題も口にした。直球の威力はまだ本調子ではないようだが、堂々のマウンドさばきだった。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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